2019年7月25日木曜日

佐々木は投げるべきだったか

この日、夏の甲子園を目指して岩手県の高校野球決勝が行われた。一躍有名になった大船渡高の163キロ右腕佐々木朗希投手が優勝候補の花巻東と対戦する、そう思って観客が押し寄せた(実際は8割の入り)。しかしーだ。私は朝日新聞のサイトで動画観戦をしていたが、何と佐々木投手は登板していなかった。花巻が2点先制しその裏大船渡が1点を返した後、花巻が点を重ねるけど佐々木は一向に出る様子がない。これは肘か肩か何か故障したかで登板回避したのだなと思った。それならこの決勝、大船渡に勝ち目はない。結局2ー12で大船渡は敗れ花巻東が甲子園への切符をつかんだ。

試合後、当然、なぜ佐々木を登板させなかったのかと質問が出る。大船渡の国保監督は「一番故障する可能性が高かったと判断し回避させた、苦渋の決断だった」と答えた。ふーんそうか。だが、当の佐々木投手のインタビューの様子を見ると、しばし沈黙し「監督さんの決断なので」と言葉少なに語った。明らかに投げたかった様子だ。そして投げられなかったわけでなく故障する「かもしれない」とのことで投げさせてもらえなかったことも判明した。

さあて、これ以降地元ファンは怒って大船渡高に抗議の電話をしたり、逆に国保監督の判断を「よくやった」「素晴らしい決断だった」と擁護する意見が出たりと百家争鳴の状況になった。翌日のワイドショーで長島一茂が「(大船渡の監督を)素晴らしい!」と賛成に回れば日曜のTBSサンデーモーニングで張本勲が「絶対に投げさせるべき。監督と佐々木君のチームじゃないから。ナインはどうしますの」「けがを怖がったんじゃ、スポーツやめたほうがいいよ」とまで言い放った。そしてこの張本発言にダルビッシュ投手が「一つ願いこと叶えてあげるって言ってきたら迷いなくこのコーナーを消してください」と猛批判、サッカーの長友佑都や前園真聖も監督の決断を支持した。ネットでもどちらかと言えば登板回避を指示する声が多いようだ。

高校野球オタクを自認する私はと言えばー。

私は「投げさせるべきだった」とはっきりそう思う。試合観戦しながらそう思っている自分がいたし、論戦を見聴きした上でもやはりそう思った。まず佐々木は故障している状態ではなかったということ、本人は明らかに投げたかったこと、そして高校野球をやる以上、一番大事な試合って県予選の決勝戦であるということだ。今後、佐々木朗希がプロに入っていくつもの試合で投げることがあるだろう。プロであれば負けても明日があるし故障しないことが最優先とも言える。それでもその試合で所属球団のリーグ優勝が決まる試合、あるいは日本一が決まる試合にエースで登板可能な状況ならばきっと投げるだろう。高校野球の決勝戦はその日のためにずっと練習をしてきたのではないのか。今後彼の野球人生でこんなに大事な試合っていくつあるのか。その機会を取り上げられて悔やまない野球選手がいるだろうか。別の競技ならば、オリンピックで「さあ次はいよいよ決勝、〇X選手、金メダル目指します!」という場面で、コーチが「故障するかも知れないから」と棄権させた、そういう状況と同じなのだ。ありえる?

国保監督ってアメリカの独立リーグでプレイした経験があり、そこで将来を期待された選手が故障で苦しむ姿を見て選手の健康管理にも注意を払うようになったそうでアメリカ的な考えが基本にあるのだろう。でもそれは日常の練習やリーグ戦での投球間隔や練習法の問題だ。多くのアスリートは決勝の舞台で優勝あるいは金メダルを取る瞬間を思い浮かべ、体を鍛えきつい練習に耐え精進する。その直前まで来たならば多少の故障はあっても出場するという選手が大半だろう。

もう一つ問題点、これまた多くの人が指摘しているが、高校野球の日程の過密さだ。大船渡は5日間で4試合もやる羽目になったという。さすがにこれは改善すべきだろう。甲子園本大会も今年から決勝の前にも1日休みが設けられることになった(これまでは準決勝の前にのみ1日休み)。国保監督の判断を誤らせた(私はそう思う)のもこの過密日程が誘因で、県予選は本大会と違い少しは余裕があるのだから来年以降もっと緩やかにするよう主催者には望もう。

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