2024年7月14日日曜日

初めて付けた病名とは

世間は海の日がらみで3連休だが、今日の私は病院当番日の日直業務だった。75名ほど外来受診者が来てそのうち50名が発熱外来(コロナ外来)患者だった。そして検査をすると32名にコロナ陽性が出た。実に64%の陽性率だ。そのほとんどの人に私がコロナ陽性であることを直接伝え、処方を出した。最近はコロナ治療薬のラベブリオやゾコーバを希望する人は少ない。補助があった時と比べて、5日間の処方代が健康保険の3割負担を使ってもラゲブリオは3万円以上するからねぇ(ゾコーバでも1万5千円はする)。

私もだいぶ慣れてきて、以前ほど腰が引けての病状説明はしない。着けているマスクもN95タイプではない普通のものだ。ぐったりして呼吸困難を起こしている人もほとんどなく、肺炎の患者もいなかった。ま、インフルエンザと同等という印象だな。ただ、感染に気を付けないと医療施設では容易にクラスター化するから気を付けねばならない。

一般外来患者の中には救急に近い人から人生相談に近い人まで様々だ。その後者の代表例が80歳の高齢女性だった。今年に入って毎月数回は外来に来て様々な訴えをしている人だった。主に心窩部痛や背部痛で腰痛も時に訴えていた。それで内科、泌尿器科、外科など受診し採血、心電図、レントゲンはもちろん腹部エコー、血管エコー、胸腹部CT、胃カメラなどこれでもかと諸検査を受けていた。でもたいした異常なしで、担当したDrの処方を見ると解熱鎮痛剤のカロナールが時々出ているだけだった。受診前に電子カルテ半年分を調べて「はて?」と私は思った。外来看護師は「またこの人ですか」なんて言っている。うーむ、他にいっぱい患者が来ているのに休日の病院に来るほどの症状なのだろうか。ちと、面倒だな・・。

でもまずは患者本人の訴えを聞かねば。

「ここ2、3ヶ月前からみぞおち(心窩部)のあたりが痛いというか変な感じで・・」「胃カメラを3月にしてたいした異常なしで薬も出ていますね」「うーん、効いているのかなぁ」一応そのあたりを触ってみるも「なんでかなぁ」という言い草だ。それにCTも内視鏡も超音波も全部調べていて特に問題なしと分かっている。で、「そもそも今一番気になることはなんですか」と尋ねてみた。

すると同居している52歳の息子が心配なのだという。ほう。もしかしたら息子は障害者なのだろうか。いや、昔に事故をして左の眼がが見えないがちゃんと仕事も出来ているという。ふうむ。どうもそこら辺を突いてみる必要がありそうだ。そして予想通り、夫とは5年前に死別していた。不定愁訴が多い人は配偶者がいないことが多い。そして同居の息子が結婚もせずいるのが心配なのだという。他に子どもは娘がいて結婚はしているも子どもがおらず、ゆえに孫は一人もいないのだと。

私は「今時、日本人男性の4分の1が生涯未婚だって知ってます?50歳で独身なんてごまんといますよ。何十万いや何百万って中年の独身男性っているんです。それでもたいていは元気で仕事もしている。だから今は何も心配ないし、やがて年取って身体が不自由になっても今の日本福祉制度は優秀で市町村の必ず誰かが面倒看てくれます。息子があなたの心配をするのなら分かるけれどねぇ」と言い、さらに「もしかしたら息子が年取る30年後40年後もあなたは生き続ける気だね。ええとその時は110歳か120歳か。でしょー!」すると「いやいやそんなに長生きするつもりはない」と当然の返事をしてくる。それで「だから息子は一人身であってもあなたよりはずっと元気で長生きするからそんなに心配する必要はないでしょ」

そして最後に私はこう尋ねた。

「あの、息子さんですよ、あなたのことをうるさがっていませんか?」すると「そーなんですよ」と。やはり。私は患者の肩をたたいて「大丈夫、心配なしです。今日は薬も出しませんからそのまま様子見でいいです」と言い放った。これに納得し、その80歳女性は帰って行った。

最後に、この患者の病名を付けなくてはならなかった。だが適当な病名が思い浮かばない。不安症という病名はあるが心配症という病名はなかったような・・・念のため調べてみた。え?!びっくりした。「心配」というそのままの病名が保険収載されていたのだ。あらま。「心配」・・私が医師になって40年め、初めて付けた病名であった。

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