2018年3月13日火曜日

軽い症状なのに怖い病気

3月に入って健診検査を当院職員にも行っている。

胃カメラは35才以降の職員に実施しているが、今日は生まれ初めて受けるというリハビリスタッフのかしましさん35才、検査台に横たわっている時から緊張感ありありのお顔で、「最初少しだけ鼻の穴が痛むけど大丈夫、すぐに慣れるから・・」といつものトークで経鼻内視鏡を挿入するも硬い表情は解けそうもない。内視鏡は食道の下に来たばかりなのに「痛い、痛い」を連発し、十二指腸に入ってまだ胃も観察しないうちに「もう終わり?」ときて「いや、まだだよ」と言うも「痛っ」とちょっとした動きに反応していた。あんましこのような発声をされると検査しにくいが、そこはベテランの私、「大丈夫だよ」「心配しなくていいよ」との掛け声をしつつきちんと観察をしていった。胃も終わり、残る食道を抜きながら観察時は普通はもう痛がらないのにそれでもまだ「痛い、痛い」と言うのにはさすがに閉口した。こりゃいくら痛がらせないように操作しても無理だったわと思いつつ抜き終わったところ、かしましさん「先生、上手でした!」だって。思わずずっこけそうになったぜ。 こんな胃カメラ初心者の言う「痛い痛い」は本当に鼻腔や胃が痛いのではなく「心が痛い」なんだな。経鼻内視鏡は基本鎮静剤は使わないのでそこを汲んで対応していかなきゃと思った次第。

今日は見かけの症状や検査データにダマされてはいけないケースが2件あった。

一人は20代女性で昨日インフルエンザA型と診断されていたが過換気症候群で救急車搬送されてきた。脳外科のポンシンDrが診察に当たったところ、動脈血ガスが異常な値を示した。私にPHSで連絡があり「pHが7ちょうどくらいのすごい代謝性アシドーシスなんです」で原因はなんだろうとアドバイスを求められた。いろいろ尋ねてみたがすぐに原因病名は浮かばない。ただ「血糖はいくらですか」とは尋ねた。すると、それは調べていないとのこと。1時間後くらいにその後の情報を聞くと、この女性、なんと放置されていた糖尿病だった。血糖が600以上、HbA1cも16という信じられない高値で糖尿病性ケトアシドーシスという怖い病態だったのだ。このまま何もせず数日放置されれば命にも関わる。結局、鹿児島市内の糖尿病専門医のいる病院に依頼し救急転送となったとのこと。単なる過呼吸だとかインフルエンザの影響だろうと思い込んではいけなかった。

もう一人は夕方に来た施設入所の高齢女性。急に嘔吐したので職員が連れてきた。私が診て触診の後に腹部レントゲン撮るも特に問題はない。入院するほどでもなく点滴、鎮吐剤注を行い終了後帰ってもらうつもりだった。18時を過ぎ「今日はボウリング練習もあるな」と思って外来から医局に戻ろうとしたら当直の井雄看護師が「先生、点滴の患者さん、どうもおかしいです。診に来て下さい」と言う。こんな時には看護師の言い分を尊重した方がいい。彼女、彼らもDrにお願いする時はそれなりに考えた上で意を決して頼んでいるのだ。行ってみると帰るために車椅子に座らせるも意識がなく、それに呼吸をしていない。元より会話が出来ない人だったが揺すっても叩いても反応ないんで「すぐに気管挿管!」と挿管チューブを入れ緊急用の人工呼吸器につないだ。おかしい、これが単なる腹痛や嘔吐であるはずがない。私がまず思ったのはくも膜下出血だった。とにかく頭部CTを撮らねば。CTを撮ると当たらずといえども遠からず。小脳出血でそれもかなりの量だった。ポンシンDrを呼んで家族に説明を頼んだが、手の施し用がないほどで、入院させるも数日くらいしか持たないらしかった。

いやー、あのまま嘔吐のみで帰さなくて良かった。見かけの症状だけで即断してはいけない。今日の2症例は最初の思い込みできちんと診察しなければ死に至る点で医者が後で「怖い」と思う病気の典型だった。

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