2016年12月20日火曜日

色覚異常と差別

朝の医局会で眼科「気功の若」Drがミニレクチャーをした。テーマは「色覚異常」。

(年賀状はすべて書き終えた。後は出すだけ。でももう明け方・・セージが帰郷していて深夜、TVで何か映画を観たいというのでヒッチコックの「サイコ」を勧めた。今見ている。さっき私立探偵が殺された。ここから真相解明に向けて展開が急になりサスペンスが高まって行く・・)

これまで眼科Drのレクチャーテーマは白内障や糖尿病性網膜症、緑内障など他科Drにとっても身近で一般的な内容が多かったが気功の若Drも敢えて珍しいテーマを選んだ。そもそも色覚異常は先天性(遺伝性)のもので基本的に治らない病気で日本人の男性の約5%、女子は約0.2%が色覚異常者だ。特に男性の5%は非常に多いといえる。赤と緑の区別がしづらいが全く分からないほどではなく一般的な職業には就くことができる。実は色覚異常の問題は治療よりも異常者が必要以上に社会での差別を受けたことにあった。だから2003年以降色覚検査は行われなくなっている。日本の石原先生という人が戦前識別検査を作り、これが簡便で感度が高いことから学校などで検査されたはいいが、戦前の色盲は兵役不合格という制度から不当に差別の対象になりがちで戦後社会でもその風潮が続いていた。石原式の検査表の前説に色盲だといかに怖いことになるかの事例が紹介されてあり読めば背筋が寒くなるような書き方だった。これじゃー差別助長されるわけだ。

私の回りでもそうだった。30年くらい前、親戚のおじさんが自分が「色盲だから長男もそうなんだ」とすごく気にしていたのを聞いたことがある。でもそこは医学部卒業の端くれ、「父親が色盲の場合男子には遺伝しないんですよ」と教えてやった。実は男子の色盲遺伝子はほぼ100%母親から受け継ぐからである。色覚異常遺伝子は性染色体XとYのうちXに乗っかっている。男子の性遺伝子の組み合わせはご存じXYだ。これがxY(xは色覚異常遺伝子が乗っかっている性染色体とする)だと色覚異常が発症する。とろこが女子はXXはもちろん発症しないがXxやxXでも発症しない。xxの時のみ発症しその組み合わせは珍しいため0.2%の発症率にとどまるのだ。で、男子は必ず父親からY遺伝子を母親からX遺伝子(もしくはx遺伝子)を受け継ぐ。だから母親からの遺伝なのである。その親戚のケースはたまたま奥さんが保因者(Xx)だったため長男に遺伝したのは間違いない。

このほか、結婚に際し色盲かそうでないかが判断の基準になるという話しも聞いた。男子の5%といえば結構な数の人口になる。それがこんなことで結婚を断ったりするなんて馬鹿らしい。気功の若Drのスライドでも「遺伝の異常というのは実はこの他にも誰もが持っているもので色覚異常がない夫婦でも異常が出る場合もある。社会全体が色覚異常について正しく理解する必要がある」と結んでいた。例えれば背が高いか低いか、二重か一重かくらいの差なのだ。今では色覚異常で就けない職業は航空管制官、パイロット、電車運転士くらいで警察、消防、海上保安官、自衛官などはごく強度の異常のみ不可となるくらいだ。医師も問題ない。会が終わって某Drが「実は自分もある」というようなことを語っていた。

ただ、検査なしから10年以上が経過し自分が色覚異常と知らずに就職の際に問題になる場合が出てきているらしい。要は差別につながらないようにすれば検査はどんどんやっていいのだ。基本的に知らなくてもいい血液型(輸血するとき、されるときにに本人がいくら自分はXX型だと言っても医療機関は必ずきちんと検査するから。ちなみにこのブログで私は血液型性格占いにきっぱり反対する立場を貫いている)ですらみんな知るように色覚も自分の個性として知っておけばいいと思う。

気功の若Drの机は私の隣である。会終了後「先生は横溝正史は読んだことがありますか」と尋ねた。返事は「いいえ」。うーむ、やはりそうか。彼は私より20才は若く、かつての横溝正史ブームは知らない。「いや、横溝正史の長編作品に色盲を扱ったのがありましてね。金田一耕助が『XXは色盲かぁー』って言い放った瞬間にXXが犯人って判明するんです」と教えてやった。力作なのだが知る限り映像化されたとは聞いていない。多分に色盲に対する差別的ニュアンスがあったからじゃないか?そんな気がするのだ。正史には当時の風潮や風俗が描かれるので差別的表現がままある。現在の出版にあたっては出版社がそこに一部修正したとか、もしくはそのまま載せてあるなどの断りが書かれるようになった。それは仕方ないことではあった。

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