2015年10月17日土曜日

「劔岳(つるぎだけ)点の記」

深田久弥の「日本百名山」は半年ほど前に買ってからふと取りだしてはそれぞれの山を頁を読むというスタイルで常に手元に置いている。そのいくつもの名山の中で印象に残っている山に北アルプスの盟主の一つの「剱岳(2999m)」がある。北アルプスのもう一つの著名な山といえば穂高、槍ヶ岳あたりだがそのあたり深田久弥は以下のように記している。

「北アルプスの南の重鎮を穂高とすれば、北の俊英は剱岳であろう。層々たる岩に鎧われて、その豪宕(ごうとう)、峻烈、高邁の風格は、この両巨峰に相通じるものである」


さらにその中で私の興味を引いたのは以下のところだ。

「・・その鉄の砦と急峻な雪谷に守られて、永らく登頂不可能の峰とされていた。・・・(中略)その剱岳の神秘の開かれる日がきた。明治40年(1907年)7月13日、陸地測量部の一行によって、遂にその頂上が踏まれた。ところが、人跡未到と思われていたその絶頂に初めて立ったのは彼等ではなかった。彼等より以前にすでに登った者があった。測量部一行は頂上で槍の穂と錫丈(しゃくじょう)の頭を発見したのである。槍の穂は長さ約1尺、修行者が頂上で修法する時に用いた宗教用の剱であった。・・・(中略)古来登山者絶無と見なされていたこの峻嶮な山に、誰か勇猛果敢な坊さんが登っていたのである。・・・(中略)とにかく不退転の勇気と鉄の意志を持った修行僧が、はげしい信仰の念にかられて、この頂上に達したことだけは歴然とした事実である」

初登頂と思われていたのに先人の登頂跡があった。実はそのいきさつを新田次郎が「劔岳点の記」という小説にして発表しそれを東映が映画化していた。黒澤明などの名カメラマンだった木村大作が初監督として2009年公開され、それが先月21日にBSで放送されていて、最近山に興味津々の私が録画していて、今日午後見たのだった。主演に浅野忠信、香川照之、仲村トオルなど一線級と揃えている。しかしなんとも地味な題材だな、タイトルも聞いたことないな、きっとこけた映画だろうなと思うも、せっかく有名な剱岳が映っているから見てみようかぐらいでカールもいっしょに見た。


ちょうどあの田中陽希さんがただ今日本二百名山を北から南へ縦断中で、つい昨日くらいにFacebookに「仙人池から眺める剱岳」と写真をアップしていたばかりだった。ちなみに仙人池と剱岳の組み合わせは深田の「百名山」文庫本の最初の写真ページに使われていて、剱岳の最後の文で「おそらく剱岳の一番みごとな景観は、仙人池あたりから望んだものであろう。眼前に、岩と雪の交錯したダイナミックな光景が迫ってくる。雄々しい岩峰と、その間隙に光る純白の雪。それほどアルプス的な力強い構図は他に類がない。その男性的な眺めに緊張した目を下に移すと、そこにはメルヘン的な原がやわらかに拡がって、そこの池沼に岩と雪の剱岳が映っている」と結ばれている。

その映画にも同じ光景が出てきた。いや、これでもかというくらいいっぱいに剱周辺の見事な風景が出てくるのだ。ストーリーはそれほどでもなかったが、さすがカメラマン出身だけあってこだわりの画面があちこちに出てくる。それだけでも見応えがあった。CGは使わず2年もかけ事故にも遭いながら撮影したんだと。調べると興収26億円240万人以上の観客動員があったとかでそこそこのヒットを記録したらしい。聞いたこともなかった映画タイトルだったが本物の剱岳を撮っているというのがポイントだ。つい最近9月2日にも剱岳では死者が出ている。そんな山での厳しさと美しさをオールロケで見られる。ヒットの要因はそのあたりにあったのではないかな。

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