2015年9月14日月曜日

蜘蛛は殺すべきか否か

朝、外来の通路を歩いて内視鏡室へと向かっていた時、足下をもぞもぞと動くものがふっと目に入り「うわっ!」と声を上げた。見れば体長5cm以上はあろうかという蜘蛛だった。私の大きな声に6番と7番診察室にいたポンシンDrとアミヤンDrが「どうしたん?」と出てきた。「見てー、蜘蛛です」とデジカメを取り出すと、ポンシンDrが感心したように「こてる先生はいつでもすぐに撮影できる態勢なんですね」と笑われるも動画を撮り始めた。するとさささっと蜘蛛は動き始めまた動きを止めた。そこで私が「殺したほうがいいんじゃないすかぁー」と提案すると、アミヤンDrが「いいや、蜘蛛は殺すもんじゃない」と言い、フラットファイルケースとカルテを取って蜘蛛を載せ窓から下の小川にさっと捨て去った。


これで無事に済んだが私は今まで部屋に入った蜘蛛は叩き殺すか踏みつぶすか殺虫剤でやっつけていた。しかしアミヤンDrが言うように「蜘蛛は殺すな」との俗言は私も聞いたことがある。「蜘蛛を殺すと罰が当たる」とか「朝の蜘蛛は殺すな、夜の蜘蛛は殺せ」とか。医局でキブンDrにも尋ねると「私も殺しませんねえ」とのこと。理由を聞くと「おばあさんからの言い伝えなので」という。芥川龍之介の短編「蜘蛛の糸」でも悪党カンダタは蜘蛛を殺さなかった。この言い伝えはそこそこに理由があって特に朝の蜘蛛は家の中の害虫を補食してくれるからという。

でも私はやはり殺す。言い伝えも知っているが理由は単純、とても気持ち悪いからだ。そんなのが目の前でうろちょろされては落ち着かない。逃がしたらまたやって来そう。家の害虫は?それも私が殺す。蜘蛛に頼ることはしない。でもそんな私でも「蜘蛛の糸」でお釈迦様が蜘蛛を殺さなかったカンダタを認めたようにちょっぴり心の痛みは感じてはいる。幼い頃に読んだ小説や聞いた言い伝えは成長しても影響するもの、なかなかに侮れないわ。

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