2021年1月26日火曜日

大腸内視鏡歴34年にして初めての経験:腸アニサキスを動画で撮る

大腸内視鏡は一般には何らかの腹部症状があったり便潜血陽性で検査を受けるケースが多い。しかし人間ドックで大腸内視鏡を受ける人は基本的に症状がない人たちだ。さらに何回も受けている人たちは所見なしとなることが多い。

でも今日の50代の男性は予想外だった。さくっと2分台で盲腸まで到達し「特に所見はないですねぇ」とお気楽にスコープを抜いていたのだがー。S状結腸に来て「うん?」と手が止まった。「なんかあるぞ」
オレンジの粘膜になにやら白く渦を巻いているように見えるものがある。瞬間、パッとひらめいたのだが、送水してきちんと確かめてみる。

ジャーン!やはりアニサキスの虫体だ。ヘッドがしっかり粘膜内に食い込んでいる。「うわー、大腸でアニサキスを見るのは初めてだー」「胃では100例近く見ているけどね」いや珍しい。サバやアジ、イカなど生で食べるとそこに潜んでいたアニサキスの虫体が人間の消化管環境はなじめず逃げだそうとして特に胃壁に食い込む。そこで胃壁との間にアレルギー反応が起きると胃けいれんを起こし激烈な痛みが生じる。腸にもアニサキスが食い込んで腸の浮腫や閉塞などを起こすことが知られているが、発生率は胃の100分の1程度と極めて稀だ。有名なのは1987年の森繁久弥のケースだ。名古屋で公演中の森繁久弥が腹部の激痛を訴えて緊急手術を受けたところ、腸にアニサキスが見つかった。サバの押しずしを食べたのが原因だった。

アニサキスは日本人には大昔からある食中毒で原因が分からず胃を手術して分かったということが胃カメラ普及以前には多かったらしい。1970年代以降は胃カメラで見つかるようになり生検鉗子で虫体を取ってしまえばすぐに症状は収まる。しかし腸内のアニサキスを見つけるのは今でも難しい。もともと発生率が稀だし、腹痛を訴えている患者にすぐに大腸内視鏡は出来ないことが多いからだ。うんうん唸っている患者にニフレックとかモビプレップとかいう塩類下剤を1L以上飲ませられないし、急性腸炎か虫垂炎、憩室炎などと診断を誤ることも多いし、それはそれで仕方のないことだ。

まずは病歴がキモ。魚の生食をしたかどうか。この方も4日前の1月22日の夜にシメサバを食べていた。そして2日経つか経たないかの頃に下痢をしていた。まあその程度で済み、腸管が腫れて激痛が来なくて良かったともいえよう。そして運良く(?)予定していた人間ドックの大腸内視鏡にアニサキスと御対面したというわけ。以前はドック利用者で胃のアニサキスを見つけたこともあり、アニサキスが食い込んだからといって意外と腹痛を来さないことも多いのである。

しかしこのまま放ってはおけない。「今から生検鉗子で摘出するぞ」「ついでにカメラも用意して」こんな珍しいケースを写真や動画に残さないでかっ!↓に摘出時の動画をアップする。私の知る限り腸管のアニサキス摘出動画をネットにアップするのは初めてではないか?貴重だからみなさんもどうぞ。ただし虫嫌いな人は見なくて結構です。くれぐれもクリックしないように。

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