2020年2月17日月曜日

また週刊現代に反論する

週刊誌は病院や薬を批判すれば売れると勘違いして今日も見当違いの記事を載せている。週刊現代2020年1月25日号を手にして「大反響特集:病院はこんなに怖いところ第9弾『病院の検査をこんなに危ない』」の記事に唖然とした。二つだけ取り上げよう。

「大腸ポリープで内視鏡室検査をしたら、ヒドい目に」という記事。

渡辺直幸(仮名)68才は憤る。「大腸がん検査でこんなヒドい目に遭うとは思ってもいませんでした」便潜血陽性が出て大腸内視鏡を受け、大腸ポリープが見つかりその場で切り取る手技(ポリペクトミー)を受けた。翌日、強烈な腹痛に襲われ、時間が経つにつれて痛みは増していく。我慢できずに救急車を呼び、検査を受けた病院とは別の総合病院に運ばれ、結局救急手術を受ける羽目になった。ポリープを取ったところの腸管に1cmの穴が開き便が腹腔内に漏れ腹膜炎を起こしていたのだった。局所切除して縫合処置が取られ退院したのは1ヶ月後だった。切除したポリープは良性だったという。

なるほどそれは大変な目に遭った。ポリープを切除すると出血や腸穿孔を来す偶発症を起こすことが確かにある。特に腸穿孔は深刻で上記のような状態になれば救急手術もやむを得ない。手技的に問題があったのは確かだろう。でも、私は大腸ポリープをこれまで切除し続けて30年以上、取った数何十何百、いや軽く一千個二千個は下らない、しかし一度も腸穿孔を起こしたことはない。取ったポリープは確かに良性が多いが一部癌が混じっていたものも何十個とある。良性ポリープも癌化する怖れがあるかもしれないから切除するのだ。上のケースは私に言わせれば万に一つのケースである。それを週刊現代は日本とは医療事情の違うアメリカを例に出して、一度大腸癌の内視鏡検査で陰性と出たならば10年は内視鏡検査を繰り返してはいけないと批判している。それに内視鏡検査の危険性を十分に説明せずに日本は流れ作業的に検査漬けにしているとも。そんなアホな。私たちの病院では事前に必ず口頭と文書で説明している。とにかく超レアケースを元に一般的な検査、治療を否定するという論理は間違っている。

もう一つ「胃カメラを飲んで、調子が悪くなった」という記事。

バリウムX線検査で影のようなものがあり、精密検査として胃カメラを受けてからキリキリと胃が痛み、3日間は食事も満足に摂れませんでしたという63才の神田修二(仮名)さん。「結局、検査の結果は『異常なし』で、それには安心したものの、胃カメラ検査でよけ名お金がかかっただけでなく、体調まで悪くなった。これでは踏んだり蹴ったりです」と。そして週刊現代は言う。胃カメラ検査のリスクとしてなにより恐ろしいのが感染症だ。都内の総合病院のベテラン看護師の話として、「胃カメラ検査のせいで感染症にかかる患者さんは多いんです。ガイドラインでは胃カメラの洗浄消毒するようになっているが、たくさんの患者が来るので対応しきれず胃カメラの消毒液は高価なので交換を渋る病院も多い。そのせいで胃カメラ飲んでピロリ菌、B型肝炎ウイルス、緑膿菌の感染症にかかり体調不良を起こす患者さんがいます」と。

確かに検査後の消毒の不十分な施設はいまだにあるかもしれない。30年以上前、雑誌「胃と腸」で内視鏡後の胃のびらん性胃炎特集が組まれたこともある。その時は不十分な洗浄消毒のせいでピロリ菌が感染し起こした胃炎ということがまだ分かっていなかった。私が内視鏡の専門医のいなかった今の病院に勤務することになった20年前、最初に取り組んだのが「内視鏡洗浄消毒機」の購入だった。そしてB型肝炎やC型肝炎が分かっている患者は念のため一番最後に回すようにしていた。今は肝炎患者に対してそれはしていない。なぜなら新病院に移行した12年前にピロリ菌もウイルス肝炎も完全に消毒出来る機械を4台も揃えさせたからだ。消毒が終わらないと絶対に使用しないよう徹底している。

週刊現代は胃カメラを受けると感染症のリスクがあるから受けない方がいいと取られかねないことを書いている。一応、一般的な「胃カメラによって胃癌が見つかり救われている患者は大勢いる。わずかなリスクを恐れて検査を受けないのはナンセンスだ」という意見も載せてはいる。ならば患者に「胃カメラは怖いよー」なんて言わず、病院に「きちんと内視鏡消毒をしましょうよ」ということを強調して欲しい。私に言わせれば胃癌大腸癌で死ぬ人は胃カメラ、大腸内視鏡を受けたことがない人たちである。検査を何らかの機会で受けていれば早目に癌が見つかっていたのにと残念な人たちが多い。週刊現代の言い分は、お乳にしこりがあって早期の乳癌だったのに「針で生検すると痛いよ〜」と脅して検査を受けさせないのと同じ論理だ。病院は注射が怖いから行きたくな〜いという子どもの心理に同調するような記事内容ではないか。

大腸に限って言えば、大腸内視鏡を受けてポリープを切除した集団と何も検査を受けなかった集団とでは明らかにその後の大腸癌での死亡率が違っていたという学会の常識データには全く言及していない。週刊現代の記事を読んで、上記の子どもと同じような心理の人が、検査を受けず結果進行癌で亡くなる悲劇を週刊誌側は分かっているのだろうか。公に文を書く人はそれが人を生かすことも殺めることもあると自覚して欲しい。病院批判をすれば雑誌が売れるからとこんな与太記事を読まされる人たちが可哀想だ。

だから、ささやかながら私は反対意見をこうしてブログに書く。

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