2020年1月22日水曜日

横溝ワールドへのお誘い

病院は夕方になると製薬会社のMRらが医局訪問をしてくる。

あんたらゼニカの女性MR先順さんに付き添って初訪問したのが眉ハマMR。名刺をもらって名前が『正史』とあるのに気づき、「横溝正史を読んだことある?横溝と同じ名前だね。それで読み方は『せいし』もしくは『まさふみ』どっちかな」と尋ねた。「まさふみです」「ほう。実は横溝正史も本名は『せいし』ではなくて『まさふみ』なんだよ」と横溝オタクの私は自分の得意分野に相手を巻き込んでいく。

横溝正史作品は私ら世代は本や映画、ドラマなどで知らない人はいないはずだが、20才くらい違う世代だと横溝ブームも落ち着いていて「犬神家の一族」や「八つ墓村」もストーリーを知らない人も多い。せっかく名前が同じなんだから是非読んで欲しい。ほぼ全ての作品を読んだ私のお勧めかつ好みは先の2作に「本陣殺人事件」「獄門島」あたり。

この中で読み始めたら終わらないのが「八つ墓村」である。
実はこの作品、推理要素はそれほど強くはない。主人公の一人称で語られ、どちらかと言えば冒険小説である。私は高校時代に桜島一周をするイベントがあった日、足に豆は出来るは筋肉痛はひどいはで疲れ切っていたにも関わらず、夕方読み始めてあまりにも面白くて一気にその日のうちに読み終えてしまった。この間沖縄に行った時、那覇市内のど真ん中に「七つ墓」という場所があるのを知り「惜しい!あと一つあれば八つ墓だったのにー」と漏らしてしまったほどだ。その少し前、高校時代の同窓生で私と似ているというエピソードを紹介したハカマさんが、現在は岡山の津山市に住んでいると聞き、「津山?津山事件、八つ墓村だね」と気を悪くするかもしれないがどうしても言ってしまいたくなるほど偏愛している。(津山事件というのは昭和13年に起きた有名な大量殺人事件で、岡山疎開中の横溝正史はこの事件を知り、八つ墓村のモチーフの一つにもなった。ただし物語の面白さとこの事件は全く別である)

面白さと推理、そして舞台設定の不可思議さでバランスが取れているのはやはり「犬神家」だろう。何度も映画、ドラマ化されているのもむべなるかなだ。そして推理小説として最高峰とも言えるのが「獄門島」だ。ただ映像化にすると確かに見立て殺人の派手さはあるが映像が活字には叶わないポイントがある。多くの読者を唸らせる仕掛けがあり、それはまた現代では映像化しにくい部分でもある。日本のミステリーで読者投票をすると「獄門島」が一位に選ばれることが多い。まあそれくらいの傑作ということだ。「本陣殺人事件」は金田一耕助初登場作品でかつ横溝が本格探偵小説を書き始めた最初の作品である。中編ですぐに読み終えられるが、日本情緒漂う密室トリック&動機、意外性など申し分ない。日本のミステリー界で最も権威のある第1回の日本推理作家協会賞(当時は探偵作家クラブ賞)を受賞した作品でもある。

上記の4作のほかに「悪魔の手毬唄」「悪魔が来たりて笛を吹く」「夜歩く」「女王蜂」あたりも遜色はない。さてさてこの病院では新人の「正史」君、私に取り入るにはボウリング、麻雀、囲碁、韓ドラなどあるが横溝正史という手もあるんだよ。せっかく本名までいっしょなんだから読んでみたらぁ。「はい、読みます」と言ってくれたが果たして・・?

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