2018年5月21日月曜日

小目

気候の良くなったこの時期、病院全体では入院患者は結構減って各病棟50人の病床があるがそれぞれ10人くらい空いている。なのに自分の受け持ち患者は増えていて過去最高人数に迫る勢いだ。この4日で11人も新患を入れ、25人ほどにもなった。他の内科Drは10人足らず。で、朝礼が終わった直後、私は患者を3人くらいをクニンダDrとピッピDrにシェアしてもらおうと思った。つまりは「押しつけ」だ。あまりにバランスが悪いし私もいっぱいいっぱいだしー。すると、私が言う前にクニンダDrがやって来て「何人か受け持ちましょうか」と言ってくれるじゃないの。うほ、分かっていたのね、ありがたい。2人受け持ってもらい、もう1人をピッピDrに譲った。それでも指示出しだけで小1時間はかかり内視鏡検査業務に遅れてしまったわ。

そんなこんなでバタバタしていた業務も夕方には少し落ち着き、所属長会議が終わって5階に入院しているオマルさんを尋ねた。1ヶ月前退院したばかりだがまた最近調子を落とし一昨日入院になった。ただ、囲碁を打てないほどではなく今回も3子で相手してもらった。オマルさんの第1打は小目(こもく)だ。3子局の定番である。ここで小ゲイマカカリを私が打ち。次、オマルさん二間高ガカリ。ここで私はコスミを打った。ああ、何ということ。中学のころ囲碁を打ち始め、当時プロの打ち碁で何度も目にした小目の代表定石が出来ようとしている。(数字のない黒石が小目である)
実は私はこの定石を今日おそらく始めて自ら打った(信じられない思いだ)。定石完成は相手あってのことで一手一手の意味をよく知らないと例え数手でもきちんと完成しない。上図でいえば私が白1と打っても相手はたいてい黒2と二間高ガカリを打ってこない。だから白3のようなコスミを打つこともなかったのだ。オマルさんはさすがに定石を知っている。小目の定石だと小ゲイマカカリではなく一間ガカリが多く、その場合ツケ引き定石になることが多い。
これは私も何度も打ったことがありプロアマ問わず小目定石の代表だ。上の定石に比べ簡明でお互いの石が安定しているのが好まれている理由だろう。

囲碁はハンディキャップは置き碁になりその場合は星だから星の定石はたくさん打ってきた。私の周りには自分と同じくらいの相手(初段前後)がいなかったこともあって小目の攻防はほとんど経験してなかった。3子局も勝とうとすればいきなり小目に掛からず3連星を敷くなりする方が有利に運べるかもしれない。だが、せっかく3子置かせてもらって打つのだから小目の攻防を経験するいいチャンスだ。今回小目小ゲイマガカリの定石が出来たことで今度から積極的に打とうと思った。ちなみに私は5手目であえてスベリを打たず小目にツケた。これは古来の打ち方でプロ同士だと相手を固めるため現代では廃れている。しかし私は相手も固めるが自分も固まりこの後オマルさんに攻められても死ぬことはなくその安定さを選んだ。3子の力量差があればそっちがいい。本で読んで知識としてそこまで知っている。勝負は結局、後半大石の攻め合いになり私が大逆転で勝った。

囲碁を始めて45年、やっと活かすことができた。オマルさんもこれだけ入退院を繰り返せばこの先いつでも相手してもらえるか分からない。数ある定石の中で小目が定石の半分を占めるほど重要なものなのに自分はあまり打つ機会がなかった。江戸の川柳に「一の手はヘボといえども小目なり」と言う有名な句がある。囲碁の初手の代表、小目にどんどんからんでいこうぜぇ。

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