2017年12月19日火曜日

「時間が止まった私 」

あんまり暗いドキュメンタリーは見たくないのだが、NHKの「時間が止まった私 えん罪が奪った7352日」はたまたまTV付けてそのまま見入ってしまった。娘を保険金殺人で殺したと内縁の夫ともども逮捕され、無期懲役の刑で服役するも2016年冤罪が証明され無罪となり20年以上経って出所した女性の記録だった。番組紹介の文を以下に載せよう。

「20年以上にわたり社会から隔絶されていた女性が、再び社会に放り出されたとき、どんなことに直面するのか、あなたは、想像することができるだろうか。
8才だった息子は29才になっていた。60代だった両親は、80才を過ぎ、介護を必要としていた。そして自分自身も31才から51才になっていた。20年前には、インターネットも携帯電話も普及していなかった。家電の使い方もわからない、別世界からタイムスリップをしてきた感覚に襲われ、彼女はとうとう、こうつぶやく。「刑務所に戻りたい・・・」。
これはすべて、大阪に住む、青木惠子さんの身に起こったことである。青木さんは、娘殺しの母親という汚名を着せられていた。1995年、小学6年生だった娘を、夫と共謀し保険金目的で焼死させた疑いで、無期懲役を受けたのである。受刑しながら、裁判のやり直しを訴え、ついに、2016年、えん罪が証明され、無罪判決が下されたのだった。
これは、20年という途方もない長い時間の中で失ったものを少しでも取り戻そうとする、ひとりの女性の再生の物語である。」

この事件は「東住吉事件」として知られ、無罪判決の際に大きく報道され他局でも特集されていたから知っていた。ガソリンで娘を殺したという根拠が実験で否定されたのはとても珍しいことだったし、自白したという「決め手」が実は警察の誘導(思い込み)によるものなのは全くいつも通りのことだったし、マスコミ情報しかしらない私を含む一般大衆はその人を犯人扱いしてしまうことなど非常に考えさせられる事件だった。そして今回のNHKのは無実でも出所した人が別の苦悩も抱えるということ、20年という長い時間が人間関係をも大きく変えてしまい元に戻るのが困難になる(息子や親ともいっしょに生活しづらい)ということがひしひしと分かる内容だった。そして、認知の母親が行方不明になり結局川で亡くなってしまうという意外で非情な事実が刻々と語られるドキュメンタリーの凄さ、しかもそれが逆に家族の距離を縮めるという何ともアイロニーに満ちた展開を見せてなかなか秀逸な番組だった。

「いくら本当のこと(自分はやっていない)を言っても分かってもらえない」「(地番飲み方であるはずの)親ですら『本当はやったんだろ』と10年以上も信じてくれなかった」と聞かされればそのつらさ骨身に染みる。人間は取り調べのような環境下では取調官の言葉に乗せられて自白してしまうということは過去の冤罪事件でも何度も何度もあった。今回も自白については不自然・不整合な変遷が多数存在したにも関わらず検察の思い込んだストーリーを裁判官は受け入れてしまった(退官前の裁判官一人は反対し差し戻しをするつもりがあったとは後になって分かった)。亡くなった娘の月命日も欠かさず祈り続ける元被告の姿をみれば無実であるのは当然だろうと今なら多くの人が信じるはず。「疑わしきは被告人の利益に」は守らねばならぬ原則だ。

↓で番組のおおよその内容が分かる。ぜひ!

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