2021年11月9日火曜日

胆汁性下痢に効くその薬の名前は・・

年に1回か2回、病院の医局員を前にレクチャー講演をしなければならない。今日が1年ぶりに私に当たっていた。で、1ヶ月くらい前からテーマを決め、スライドを先週作っていた。私にしては余裕を持って作れた方だ。

さてそのテーマだが「胆汁性下痢」というタイトルで、意外に治療に難渋する下痢の有効な対策を紹介したものだった。結果からいうと、私のこれまでの医局レクチャー歴で一番の反響があった。発表が終わった時に、可愛いんだ理事長が「うむ、なかなかいい発表だった」と言ってくれ、医局に戻った時に脳外科のカワゼンDrが「先生、さっきの発表のスライドのコピーをもらえませんか」と頼まれ、Macのキーノートで作成したものをパワーポイントに変換してWindowsでも見られるようにして渡した。さらに午前の内視鏡検査を始めようとしたら、脳外科のポンシンDrと外科の東洋Drがいっしょに来て「さっきの下痢に効くという薬の名前は何ていうでしたっけ」と尋ねて来たのだ。

いやはや、スピーチの中で何度も「コレバイン」という薬名を連呼していたつもりだがドクターってのは意外と薬名を覚えるのが苦手なんだ。

スピーチの概要は胆汁酸による下痢にコレバインが有効ということだった。肝臓から作られる胆汁酸は脂肪の吸収に役立っているわけだが、余った胆汁酸は小腸末端でほとんどが再吸収されまた肝臓に戻り、一部(約5%)が大腸に流れ、これが大腸を刺激し排便を促す。しかし胆汁酸の吸収がうまくいかず大腸に余分に流れると頻回の下痢を起こすようになる。人によっては毎日、特に午前中の食後に起きやすく悩みの種になる。胆石などで胆嚢を取ってしまうと胆汁酸のコントロールがうまくいかず胆汁性下痢を起こすことがあり、スライドで紹介した3人ともそうだった。その人たちに胆汁酸を吸収する薬コレバインを投与するとピタッと下痢が止まるのである。

実はこの事実は7、8年前くらいからかな、消化管をやっている内科系ドクターにはちょっと知られていて、以前青雲会病院に非常勤勤務していたグッちんDrも自身のブログで触れていたし、ネット上でも「下痢が劇的に改善!人生を救ってくれた」とまで言い切る患者さんもいたし、学術的にも東邦大学の発表もあり、また岡山の川崎医科大では「胆汁性下痢のコレバインによる治療成績の検討」のために治療した患者さんに研究参加を募ったりしていた。またNHKの「ためしてガッテン」でも薬品名こそ出て来なかったが2015年に胆汁性下痢の特集もあった。ちょっとアンテナを張っていれば知れた事実だったのだ。

日常診療で下痢に悩むのは患者さんばかりではない。どうにか止めて欲しいという訴えに医者の側もうまく応えられずにいるってことだった。何と、この後可愛いんだ理事長から院内電話で「今朝の話の薬は何ていう薬だったかな」と来て、昼前には外科の貴文Drまで来て「こてる先生〜、術後の患者に使いたいんですが、あの薬の名前は〜?」と来たのにはもう笑うしかなかったよ。なにがって、みーんなコレバインって名前を覚えていないんだもん。ついさっきしゃべったばかりなのにー。初めて聞く名前って本当に医者は覚えてくれない。コレバインそのものは20年も前には上梓された薬なんだが外科系のドクターにはあんましなじみがなかったんだろうね。私はスライドの最後にこの薬のおかげで快調そのものになった患者さんの承諾を得てその写真を発表に使わせてもらった。↓。「これはいい!」口に出してみれば分かるが「コレバイン」とも聞こえる。
そうだった。スピーチでも触れたが、この薬、本来はコレステロールを下げるための薬だ。胆汁酸(成分はほとんどコレステロール)をコレバインが吸収すると胆汁酸不足になるため血中からコレステロールを肝臓が消費するからだ。しかしの効果はスタチン系薬剤と比べると弱い。しかし胆汁性下痢には特効薬とも言えるほどの効果を示す。現在のところ、コレステロールが高い患者にしか使えないが「胆汁性下痢」もしくは「下痢型過敏性腸症候群」の病名でコレバインが保険適用になってほしいと切に願うわ。

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