2021年7月30日金曜日

大腸憩室出血のはずが・・

数日前から「大腸憩室出血」で入院している某患者さん、何回も下血を起こすのでそのたびに大腸内視鏡をくり返すのだがどうしても出血源の憩室が見つからない。まあ、それはよくある話でどこの病院でも憩室出血の止血に苦労する。憩室出血の止血率は全国平均で2、3割ってところだ。しかし私は粘り倒すのでいったん入院させたら5割以上止血に成功している。

入院中に下血するとすぐさま大腸内視鏡を行うことが出来るので出血源発見率も高まる。この患者さんは上行結腸に20個弱の憩室があるのみと判明しているので、そのうちのどれかが犯人のはずだ。しかし検査時には出血は止まっていてなかなか見つからない。1個1個吸引反転し刺激してわざと出血させ出血源確定を試みるのだが見つからないのだ。

そこで昨日は可能なかぎりクリップを憩室に掛けていった。憩室の底が見えて明らかに露出血管のないものは省きクリップを掛けまくること10個程度20本以上。ついには保管してあった標準サイズのクリップの在庫が尽きるほどだった。これだけ掛ければ今度出血したらある程度出血源が絞れるだろう。それに掛けた10個ほどの憩室の中に出血源があるかもしれない。これでほぼ下血は止まるはず、だった。

昨日は夕方にS状結腸捻転の患者さんの緊急内視鏡をし終わって19時を過ぎたころ、また下血があるとの報告があった。げげー。もうその時には入院して五度目の大腸内視鏡をする気力は残っておらず絶食点滴安静の指示を出すのみにした。おかしい。これだけやって出血源が見つからず可能なかぎりの処置をしても止血出来ないというのはあまりないこと。その時は頭も体も疲れていたので、今日大腸内視鏡をすることにして帰宅の途についた。

今日、腸管洗浄剤での前処置をしっかりしてみて、あることが分かった。というよりもこの患者さんは大腸憩室出血ではない!ということが分かったのだ。普通大腸内視鏡をすると盲腸までは必ず入れて観察し、さらに小腸末端までちょこっと挿入して観察する。その原則を今回は行っていなかった。大腸にいっぱい血が付いて出血源らしい憩室が上行結腸にいっぱいありそこが出血源とばかり思っていたのだ。だが原則どおり小腸まで見てみると・・小腸も血液がいっぱい付いていてぎりぎり奥まで付着していた。ということは出血源は大腸ではなく小腸より上の方ということだ。胃や十二指腸の潰瘍出血も当然考えられるがこの患者さんはすでに検査していてそれはないと分かっている。ということは小腸が出血源ということだ。はあ、そういうことだったか。

この患者さんに対し、これまでの経験上、憩室出血は間違いないという思い込みがアダになった。だって目の前に出血しそうな憩室が20個ほどもあったからねえ・・。小腸出血は鎮痛剤内服副作用による潰瘍出血か先天的に小腸に出来るメッケル憩室からの出血が考えられる。鎮痛剤潰瘍出血は私も以前に経験がある。メッケルはない。いずれにしても小腸内視鏡が当院にはないので紹介せざるを得ない。鹿児島市内のプーさん病院がいいかな。しかしすでに日も暮れかかっていて明日紹介することにした。

やはり原則どおりの観察を怠ってはいけない。思い込みはいけない。反省しきりのこてる先生であった。

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