2018年2月16日金曜日

彼女はなぜ涙目になったのか

食事摂取が困難な高齢患者に点滴をするのはよくある医療だが、いつまでもそればかりというわけにはいかない。点滴ってそんなに栄養があるわけではなく特別な高カロリー点滴といえども生を全うできるわけではない。どこかで胃や腸を通して栄養を摂らねばならず嚥下困難な人に経鼻チューブから栄養食を補給することもよくある。

病棟でそのような患者に「そろそろ経鼻栄養をしないといけないなあ」と私がウークノダNsに話すと、栄養サポートチーム(NST)の一員である彼女は「先生、その前に点滴にビタミンB1製剤を入れてもらえませんか」と言ってきた。あ、そうか。私は素直にそれを受け入れ数日間点滴内にアリナミンFを混ぜる指示を出すために電カルの前に向かった。

知っている人も多いと思うが、長期間飢餓状態の人に急に糖分を与えると危険なことがある。リフィーディング症候群といって栄養を急に摂取することで水や電解質分布の異常を引き起こし、心停止を含む重篤な致命的合併症を起こすことがある。ビタミンやミネラルを補給し少しずつ栄養を与えないといけない。彼女はそれを言いたかったのだ。で、「昔、豊臣秀吉が兵糧攻めで落城した相手に大釜でお粥を振る舞ったところそのせいでほとんどが死んでしまったってエピソードもあるな」と私が言うと「はあ?」という表情だった。ま、それも予測のうちで「ご指摘ありがとうございます。さっそくアリFを指示しなくちゃね」とかちゃかちゃキーボードをいじり始めた。

この後が全くの予想外だった。なんとウークノダNs、うるうるし始めたのだ。なに?

実はこのように治療方針について看護師が医師に意見するってのは相当なプレッシャーがあるようなのだ。間違ったことを言うと「何言っているんだ、アホか」ぐらいは当たり前で、仮に正しいことでも医師によってはプライドを傷つけられたと不機嫌にさせるかもしれない。そこまでの葛藤の中にいるってことなんだ。

ああ、医師たるもの常に受容的な態度でいなければならない。威圧してものが言えないようだと仮にミスがあってもそれを指摘されず重大な事故につながることすらある。私は以前リフィーディング症候群を起こさせてしまったことがあった。スタッフは患者が良くなるために皆頑張っている。お互いに風通しのいい状況でないと結果患者のためにならない。彼女の涙目は改めてそれを気付かせてくれたのだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿