2021年12月1日水曜日

二人とも「初めて」の柿

昨日は年に1、2回担当する北山診療所での仕事があった。内容は午後の外来と往診でたいして忙しくはなく定期処方とインフルエンザのワクチン接種をした後はしばしぼうっとしていた。で、「1軒だけ往診があります」だと。「どこ?」「木津志です」「ほう、田舎だね」

木津志といえばどこを切り取ってもど田舎で、良い言い方をすれば日本の原風景を味わえる所だ。何年か前ここに、カールを連れて彼岸花を見に行ったことがある。今日寄ったところも70代の男性が独居の古い家で、小さな坂を上がった所にはお風呂の準備で薪がくべられていた。

家には土間があり、納屋が隣接している。50、60年くらい前の私の田舎の実家もそんな造りだった。便所も当然外にあったな。診察は玄関で行い、インフルエンザワクチンを接種して、定期処方を書いて終わり。その間、ここぞとばかりに私は写真を撮っていた。この家もあと10年から良くて20年、男性がいなくなれば後に住む人は誰もいない。近くの親戚の家も男性より高齢だからだーれもいなくなる。限界集落とはこのことだ。

後は帰るだけと訪問看護師らは思っていたようだが、私はどうしてもお願いしたいことがあった。「〇〇さん、庭の柿の木ですけど、あれ食べているんですか?」「いいや、食べられるけど私は食べない」「取ってもいいですか、食べられるんだったら」「いいよ」ということで雨が降り始めている中、私は庭に出た。柿の木はすでに葉っぱは落ちて実だけが何個も成っている。その中で2個だけ手が届くところにあってそれらを私はもぎ取った。実は生の柿を収穫したのは生まれて初めてのことだった。

この後、上の方にある柿を取るために長鋏みを家の人が用意してくれ、看護師にカッティングして何個も取ってもらった。なんだかみんな楽しそう。
診療所に帰ってさっそく剥いて切ってもらった。市販のものとは比べものにならないがまあまあいける。家にも持って帰った。その柿はちょっぴり渋さが残っていていたためカールは「干し柿にするわ」とさっそく軒下につるしていた。「私、干し柿が好きなんだけど自分で作るのは初めてなの」と少し嬉しそうだった。市販の柿はもったいなくて、ということらしい。
限界集落でもぎ取った柿たちは私にとって初めての嬉しい柿になった。

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