2021年6月11日金曜日

上村邦夫プロ、あなたのおかげで勝てました

囲碁を知らない人には今日のネタは全く興味持てないかもしれない。言いたいことは上のタイトルにあるとおりである。オマルさんとの2子局、石と石の競り合いの場面で、ふと昔読んだ棋書の手筋が浮かんでそのとおりに打ってみたら一気に形勢が私に傾き勝つことが出来た。普通は本に出てきて読んでいても実際の対局には活かされないことがほとんどだ。しかも今回のは碁を打って初めて使った手筋と言ってもいいかもしれない。

囲碁には様々な手筋があり、基本的なアタリからシチョウ、ゲタに始まり初級、中級、上級と細かなことを言えばきりがない。滅多に現れないが有名な手筋では「石の下」なんてのもある。今回出現した手筋は「両アタリ」だ。は?両アタリなんての石を取る初級の手筋で、囲碁を打つ人なら誰しも経験したことがあるのになんで?と思うかも知れない。将棋で言えば王手飛車取りみたいなものだ。しかし、ちょっと違う。自ら両アタリされに行ったのだ。一見を損をするような状況に持っていき実際は得をするという手筋で、30年前にNHK出版から出された上村邦夫(かみむらくにお)当時八段の「発想を変えよう 中盤戦法」という地味なタイトルの本に出ていた。

私はその本が出てすぐに買っていた。そのころは囲碁に再びハマっていた頃だったのだ。その本の最後の最後に出ていたテーマが「いろいろな捨て石作戦」でその一例として著者の「だいぶ高級になるので、初級の方には、こんな打ち方もあるのかと思っていただければ十分です」と解説があった。その碁は上村プロとアマ屈指の強豪の2子局だった。アマ強豪の打った一見普通の手が良くなかったとの上村プロの指摘とその後の手直しの着手に驚いたのだ。この本で30年後の今も覚えているのはその箇所だけでそれだけインパクトがあった。↓の棋譜で、石の競り合い中に両アタリを防ぐ黒の⑥の手が敗着に近いという指摘だった。アマとはいえ県代表クラスの打つ手だ。そんなに悪い手には見えないが・・。
その後の展開を見ると白⑩と伸びきられ上辺が白の大きな確定地になって確かに形勢を損ねている。↓参照。
ではどう打てば良かったのか?上村プロの推奨したのが、一旦アタリを効かした後、①と白に両アタリを許す打ち方だった。へー!と思った。自分の黒石が取られるがそれ以上に発展性のある上辺をポン抜きで制することが出来る。石を捨てたがらないアマチュアには全く浮かびにくい発想だ。
上村邦夫はイケメンで酒が強く、NHK囲碁番組の司会を長く務めた女流アマ日本一の堤加蓉子さんを嫁にもらうなど囲碁界ではよく知られたプロだった。囲碁の本はわずかしか出していないが、私にとっては上の両アタリを許す打ち方がすごく印象に残っていていつか使う機会があればと密かに思っていた。それが今夜だった。

まずは↓の盤面、競り合いで白にハネられたところだ。両アタリがすぐに目が付くので黒石をツグのもあったかもしれない。しかし上村プロの教えを私は思い出した。
えいっと白石のアタマをさらにハネたのだ。↓。両アタリされ黒石のどちらかは必ず取られてしまうのだが・・。
この手を見て、オマルさん「ウホッ」と声を上げた。驚いたのは間違いない。そして何をこしゃくなと思ったのか、両アタリせずに負けじとハネてきた。しかしこれはさすがに無茶で私に先に当たりされ出来た結果が↓だ。
黒白1個ずつ相手の石を取ったが、白は最後にハネた石がムダ石となった上に中央の5子もまだ眼がない。それに対し黒は左辺がすべてつながり完全な黒地になった。しかも先手だ。これは誰が見ても黒の大成功でこの時点でこの碁は絶対に負けられないと思った。オマルさんは悔しかっただろう、最後まで打ち続けたが、結局私の44目勝ちと大勝だった。

上村邦夫はNHKの本を書いた時は八段でその後九段に昇段、無冠ながら強者として活躍していたが、残念ながらその後悪性リンパ腫で50代の若さで亡くなってしまった。1986年の彼のNHK囲碁講座はある囲碁棋士が「今まで見た囲碁番組の中で屈指の名講座」と褒めたほどのものだったらしい。その頃は一番囲碁から遠ざかっていたころで私は見ていない(翌1987年から10年ぶりに再開)。しかしその評判のおかげで数年後出版に至り、私の目に触れたのだ。きっと草葉の陰で喜んでいてくれたに違いない。ありがとう、上村邦夫さん。

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