2024年9月18日水曜日

スピルバーグ初監督作品「激突!」

YouTubeでなぜかスティーブン・スピルバーグ監督の映画(TV映画)第1作として有名な「激突!(原題;Duel)1971年」のカーチィスシーンが10分ほど紹介されていた。もうTVで何度も見たことがあるのだが、見始めると10分ほどとはいえやはり最後まで見てしまった。

それで夜、UーNEXTで最初からきちんと見てみた。この映画、他の動画サービスでは扱っておらずUーNEXTだけみたいで入っていて良かったわ。今回じっくりと見て、主人公がなにかのセールスマンをしていてお金の回収のためにテキサスからカリフォルニアに向かうこと、妻と今一つうまくいっていない様子でその仕事を早く済ませて妻に会うために長い1本道を車で走らせていたことが分かった。とりあえずあのルートを引き返そうとは思わなかったってことだ。

まあそれはいい。この映画、アメリカではTVで放映され高視聴率と高評価を得た。スピルバーグとちょっとしか面識のなかったジョージ・ルーカスはフランシス・コッポラ宅のホームパーティに出ていた。その席を外して「10分か15分くらい見てやろう」と「激突!」を見始めたらやめられなくなった。そして「この男はすごく出来る・・」「もっとよく知りたい・・」と思ったという。それくらい、いったん見始めると止められなくなる素晴らしい演出なんだ。

物語では主人公の車が不気味なタンクローリーに嫌がらせを受け、次第にタンクローリーは主人公を殺そうとしているのではないかという動きを見せるようになる。途中、給油所やドライブインでタンクローリーのドラーバーらしき人影を見るが顔は最後まで確認出来ない。線路の踏切で待機していると後ろからタンクローリーはぶつかって来て線路内に巻き込ませようと明らかに殺意を表面化させてきた。その後、タンクローリーを振り切ったかのように見えても待ち伏せされたりししつこくからんでくる。

ヒッチコックのほぼ全作品を見た私は、この映画でいくつかヒッチコックに共通する演出を指摘出来た。スクールバスの下りとかでは主人公と観客以外は何でそんなに慌てているか分からないもどかしさがあり、そして急場を切り抜けた後、居眠りしていた主人公、観客はそんなことで大丈夫かと不安を駆り立てられているところに轟音が聞こえ、ほうらまたタンクローリーが近づいたぞ逃げろと思うのだが、実際は近くを通った列車の音だったなど、緊張と弛緩、ブラックユーモアなどヒッチコックの影響が明らかにある。

1971年と言えばヒッチコックは晩年にあたり衰えも見られた時期だが、以前この「激突!」やそれに続く「ジョーズ」をヒッチが撮っていたらと思ったこともあった。でも、スピルバーグはその道の後継者でもあるなと再認識した。この手のサスペンス、若さも重要だ。ともかくも若干25歳とはいえ才能あふれる監督の作品だと見れば分かる。ラストシーンの少し前、主人公の車がもう相手はいないだろうと思って運転しているところ、遠景で撮影し道路の真ん中で、急に右に左にのたうち回るシーンがある。何をしている、回りには何も誰もいないのに。しかしカメラはすぅーと引いてみせる。すると手前にあのタンクローリーの車体の一部が現れ、なぜ車がそんな動きをしたのか観客は知る羽目になるのだ。うまいし面白い。
なお今回、この作品を調べて初めて分かったことがあった。迫り来るタンクローリーの正面になぜか車のナンバープレートがいくつも張り付けられているシーンが何度も出てくる。実はこの物語、タンクローリーの煽り運転のお話などではなく、もともとの正体不明の相手はハイウエイで車を狙って人殺しを楽しむ殺人鬼であっていくつも張り付けられたナンバープレートはその戦利品なんだと。これって連続殺人鬼が殺した記念に被害者の持ち物を手元に飾っておく事例といっしょだわ。
それとこのTV映画が日本でまだほとんど知られていない頃、TV朝日の「日曜洋画劇場」担当の高橋浩さんという人が自宅で16ミリフィルムを取り寄せ、見てすぐに購入を決めたところ、後で映画化の話や洋画劇場で放送するためには70数分という時間が短すぎて90分のするよう撮影を追加依頼させ現在の90分の映画になったというエピソードで、高橋氏は「今思えばあのスピルバーグによくフィルムを継ぎ足させたなぁと思う」と話しているそうだ。

スピルバーグの初監督作品がこの「激突!」でアニメの宮崎駿の初監督作品が私の大好きな「ルパン三世カリオストロの城」だが、共通するのは現在ではどちらも映画を目指す若者向けの演出の教科書的作品になっていること、そしてどちらも見始めると止められなくなること、さらに言えば初監督作品といえども天才と言われる監督は処女作でも凡庸の人に比べはるかに優れた作品を作っているということで、映画監督で元々優れた才能の持ち主は第1作目でも非凡な作品を作るし、努力すればどんどん優れた作品を作れるものではないんだなということだ。その道を目指す若い人には可哀想なくらいの現実だがたぶん当たっていると思う。

私が中学2年の冬にこのTV映画では日本では劇場公開された。TV映画がそんなふうに普通の映画館で公開されるということは異例で私はこの映画を知ってはいたが見には行かなかった。高校の時にTV朝日系で放送されて後半からたまたま見た。当然最後まで見たが、なぜかその後の放送でも冒頭の15分くらいを見ておらず、今回はそれもしっかり見られてよかった。古い映画でも名作はやはり名作、皆さんもその機会があったらぜひ視聴してみよう。

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