2025年4月15日火曜日

大腸癌から命を守る治療で日本は負けている

 昨日の朝礼スピーチの効果か、「精密検査が必要って言われたらちゃんと受けようと思いました」と言ってくれる職員がちょくちょくいた。ふむふむ、当たり前のことなんだが、どうにか受けずにやり過ごせないかと思っている人が多いってことも感じたな。

スピーチでは、まだ30歳代と若いのに大腸内視鏡を受けて早期大腸癌が見つかり事なきを得た人、4年間も便潜血陽性を言われていたのに精密検査(大腸内視鏡)を無視して、定年を迎えそれ以降ドックも健診も受けず、60歳代半ばになってひょこっと外来で「便に血が混じる」と訴えてきて調べると進行大腸癌だった人、それぞれ真逆のケースを紹介した。

血圧や糖尿、コレステロールなどの異常が出て要精密検査と、便潜血陽性や胸部レントゲン、子宮スメア検査などの異常で要精密検査とでは命に関わる喫緊性で差がある。無論、後者がより命に関わることが多い。後者はいずれも癌であるか否かを調べる必要があり、癌であったらどんなに低い血圧で糖尿なくて善玉コレステロールが多くて素晴らしい結果であっても、数年から10年以内に必ず死ぬ。前者も重要で放置していたら命に関わることも多いがそのスパンは10年から30年先の話で精密検査を受けなくてもすぐに死ぬことはまずないのだ。

おまけに精密検査で大腸内視鏡を受けた場合、アメリカの大規模調査では大腸癌で亡くなる確率が50%以上も低下したという。これは早期癌が見つかるからというだけでなく大腸ポリープを積極的に内視鏡で取ってしまうため将来の大腸癌の芽を摘んでいるからでもある。もう一つ、アメリカでは大腸内視鏡そのものが料金が高く、検査だけで50万円以上かかる。鎮静剤を希望すればそれだけでプラス10万くらいはアップする。おいそれと検査を受けられない。しかし民間保険会社も利用者が大腸癌になって受ける手術代や入院代の方がはるかに高額なので50歳以上の被保険者に10年に一度の大腸内視鏡はタダにするキャンペーンをやったら多くのアメリカ人が受けるようになり、その結果大腸癌死亡者数のみならず大腸癌の発生数もかなり減ったのだ。2020年のデータで人口3億7千7百万のアメリカでの大腸癌死実数は5万1420人で、対する日本は1億2千7百万で大腸癌死者数が5万3200人になり、なんと人口が2.6倍も多いアメリカの方が大腸癌死者数が日本より少ないという結果になっている。

私は日本の方が大腸内視鏡のテクニックについてはアメリカより上回っていると思っていたが(実際そうだ)、肝心の大腸癌の死者数を減らすという件については完全に負けていると言わざるをない。あんなに肉を食べデブの多い肥満大国に大腸癌治療では負けているのだ。便潜血陽性からの大腸内視鏡実施はその発見比率において20〜30人に1人癌を見つけるという優秀なものだが、もっと国民に直接大腸内視鏡を受けさせる必要があるのではと痛感した。だって大腸癌で亡くなる人の最大の共通点は「それまで大腸内視鏡を一度も受けてこなかった」人たちだからだ。極論を言うならば、野菜や繊維分の多い食事をしてタバコを吸わず運動もして健康に気をつけているが大腸内視鏡は受けたことがない人より、暴飲暴食タバコ吸いまくりだけど大腸内視鏡を受けてポリープを取ってもらった人の方が大腸癌で死ぬ確率ははるかに低いのだ。

以上のこともスピーチで強調した。私は自分が専門にしている関係上、大腸癌では死にたくない。そうなったら恥ずかしいとさえ思っている。オリンピックの年に「一人大腸内視鏡」をやっているのは大腸癌を早期で見付けて早めに対策しておこうということなのだ。幸か不幸かこの30年以上、ポリープの1個も見つからないけれど・・。

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