ある40才代男性の診察。その人は健診で異常指摘あり「中性脂肪が高い」ことを気にしていた。採血をし直したら確かに高かったが「健診の時はもっと高かった」という。中性脂肪は前日の食事の影響を受けやすく「昨夜は食事を抜いて来ました」というから納得のいく数値ではあった。でもそれより糖尿病の重要な数値であるHbA1cが正常域ぎりぎりで肥満体型でもあったので「今後糖尿病になりそうで減量する必要がありますよ。そもそもなんで糖尿病や高脂血症や高血圧がいけないか知ってます?」と尋ねた。少し戸惑っていたので質問を変えて「体の中のどこが悪くなるかってことですよ」と言ったがスパッと正解を言える人は少ない。
答えは「血管」である。よく聞く「動脈硬化」だ。「人は血管から老いる」ともよく言われる。40代くらいまでは多少の無茶や不摂生をしても動脈硬化からくる脳梗塞、心筋梗塞、腎不全などで亡くなったりはあまりない。しかしこの時から動脈硬化予防をしっかりやった人とそうでない人とでは10年後20年後確実に差が付く。極端な場合50才前後で急死する人も出てくる。「糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満は動脈硬化の危険因子だから・・」と言いかけ私はハッと気づいて質問し直した。「もう一つ大事な危険因子がありました。あなた、タバコ吸っています?」「吸ってます」「1日何本くらい」その患者は悪びれることなくこう答えた。
「60本です」
ぶっ飛んだね。中性脂肪だの採血結果だの心配する前にやるべきことがあるやろ。喫煙は先の4つにも劣らない危険因子だ。1日20本でさえそうなのに60本とは今時聞いたこともないくらいのスモーカーぶりだ。「1日20本くらいならだめですか」という患者に対し私は無理を承知で「1本も吸わない完全禁煙を勧める」と言った。アルコール依存患者と同じで「コップ1杯くらいなら」は無制限と同じ結果になる。覚醒剤依存患者に「覚醒剤の注射1本ならいいんじゃない」と言っているのと同じだから。ならば「禁煙治療を受けたい」と言うので確かシマッチ院長がそれをやろうと言っていたのを思い出し院内紹介をしようとした。しかし看護師に尋ねるとまだ始動していないとのこと。この禁煙治療、行うための国が言ってくる施設基準がうるさくて簡単には始められないのだった。
5つの危険因子の中で患者本人が確実に消し去ることの出来る治療法は「禁煙」だ。その方法はいろいろあるだろうがまずは必要性を自覚してもらうことが先決。今日の指導はそこにつきる。いやはやそれにしても1日60本とな。看護師が言っていた。「あの人、採血を待っている間、病院の外に出て吸っていたそうですよ」先が思いやられるわ・・。
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