今日は32回目の結婚記念日というのに当直だった。諸先生方とのからみでこうなったのは致し方ない。
当直帯に入り、5階病棟のマチルダ師長から「先生、オマルさんと囲碁を打って下さいな」と連絡が入った。なんでも「こてる先生とは今日は打てないのか」と何度もお願いされたそうだ。私も無論断る理由はない。で、夕食摂ってから2子局を打ち始めた。今日勝てば引き分けを挟んで3連勝だから、ふふ、2子局卒業なんてことになるかな・・。
しかし時間外の外来患者も来て10分ほど抜けたり、病棟から病状報告などあり今回はやや集中力を欠いてしまった。オマルさんの無理手をとがめ損ね、本来生きている石を死なせてしまった。結構粘ったが挽回不可能で投了した。やはり簡単に手合いは変えられないわ。くーっ。
それから40分も経たないころ、救急要請が入った。60代女性が急に意識不明、呼吸停止になったという。運ばれて来た時には心停止もあり、当然心臓マッサージ(胸骨圧迫)をしつつだった。すぐに気管挿管し点滴ラインから強心剤を打ち、マッサージは続けた。一時、心拍は戻った。波形も心筋梗塞の時に見られるような異常Q派やST上昇などはない。しかしすぐに心臓は動かなくなり30分ほど経過した。どこからか私へ連絡が入ったようでピッチ(PHS)が鳴っていた。しかしすぐに受けられず心肺蘇生が一段落したところでピッチに出た。すると5階病棟の腎不全で感染症治療をしていた70代男性が心肺停止だという。急いで上がり気管挿管したがちょっと助けられる状態ではなかった。家族の到着を待って残念な結果を報告しなければならないだろう。
また救急外来に戻ると、スタッフによる心臓マッサージは続けられていたが、何度かの強心剤にも反応しなくなり、息子さんらを呼んで心肺停止から1時間を経過いしておりこれ以上の蘇生は無理であると伝えた。涙をこらえながら息子氏は納得し、それで蘇生を止めさせた。それでなぜこのような事態になったのか、亡くなったばかりでつらいだろうが、死後CT(Autopsy imaging:Ai)をやってみてはどうかと提案した。特に発症の仕方が脳卒中の中のくも膜下出血を疑わせるからと説明した。料金が普通より高くはなるが、息子氏は同意してくれたので、放射線科の当番を呼んで実施することにした。と、今度は4階病棟からピッチが鳴った。
「先生、今日手術を受けた90代女性の心臓が止まっています」
「は?」
なんということ。1時間もの間に3人もの心肺停止を診なくてはならないのか。その患者さんは術後も血圧維持が難しく病気の原因からして相当厳しい状態であるとすでに説明がなされていた。術後なのですでに気管挿管されていて心臓マッサージと強心剤の指示を出した。そして先の外来患者の死後CTの結果が出たとのことで、一旦外来に戻り家族に説明をした。典型的なひどいくも膜下出血だった。これなら急な倒れ方をして呼吸停止が来たのも当然だったろう。そのことを息子氏に説明し、脳ドックとかを受けていない状態で事前にこの病気(くも膜下出血)が起きるのを予想するのは不可能だったし、この発症の仕方では助けることはほぼ無理だったと説明した。泣きながら説明を聞いていたが、原因がはっきりしたことは遺族のためにもよかった。あの時自分が早くその場にいてどうにかしていれば助かったのではなどと自らを責めるケースがままあるからで、亡くなってからの検査も相当に意味があるものなのだ。
4階に行き、術後患者の家族が集まっていたのでこれ以上の蘇生はまず無理でしょうと説明をした。その直前に私は手術記録をカルテで確認していたのだ。これは手術をしてもまず助からないケースだと。すると私の左隣にいた男性が「ですから」と語り始めた。え?!なんと信号Drだった。なんだ主治医がいるじゃないか。私を呼んだ後、すぐに主治医にも連絡したようだ。上を下への騒ぎで私はそのことを聞いていなかった。この後は主治医が説明し心肺蘇生を止めることになったようだ。すでに22時を過ぎていた。
はあ・・。過去にも一晩で3人の看取りはあった気がするが、こんなに短時間にというのは記憶がない。先の2人は死亡診断書を書いた。その後カルテの記録やなにやらで一段落してからは、医局の机にうつ伏せてしまい、翌日未明まで私は寝込んでしまったのであった。