昨日の当直で中高年女性がやって来て腹痛と下血があるとのことだった。午後から便秘で夕方トイレで排便を頑張っても出ない上に腹痛がひどくなりそのうちに冷や汗も出てきた。そしてやっと排便出来たと思ったらその後に下血だと。
前にも書いたがこれは「虚血性大腸炎」の典型的なパターンだ。痛みさえちょと我慢すれば治りは案外にいいので必ずしも昨日の夜に緊急内視鏡をする必要はない。痛み止めを出して今日大腸内視鏡を受けるよう指示をした。結果はまさしく虚血性大腸炎。「ほうらね」と私。大腸内視鏡を専門にする先生ならみんなよく経験するシーンだ。消化器専門Drの間ではありふれているのに一般には一向にこの「虚血性大腸炎」は口に上らない。青雲会病院では月に最低2人以上は診る疾患だというのに。これはきっと症状の割りに治りがいい質(たち)のいい病気だからというのが私の見立てだ。癌などと違って死ぬ病気じゃないし1週間もしないうちにケロッと治ってしまうから話題になりにくいのかも。
逆に滅多に見ない病気なのに世の中の誰もが知っていてよく使われる病気の代表が耳鼻科領域の「メニエール病」だろう。実は私は医師になって30年以上だがまだ一度も自分でメニエール病と診断出来た患者さんには出会っていない。メニエールと似たようなめまい、嘔吐の患者ならたくさん見てきた。頭位によってめまいが誘発される「良性発作性頭位めまい症」はよくあるるし、「前庭神経炎」は私自身が罹ってめまいで苦しんだこともある。そういったありがちなめまいの病気を世間の人はひっくるめで「メニエール病」と言っているようなのだ。医者の私が一度も診たことがないのに。
実際は多いのに知られていない、実際は少ないのにみんな知っている。病気の名付けにもなぜかしら運不運があるようだ。
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