2014年12月27日土曜日

「四苦八苦タイム」

さて土曜勤務に引き続いて当直へ突入、忙しい状況が続いたわけだが、滅多にない有り難い話をもらった。ブックリバーDrが12月30日の私の当直を代わってくれるということなんだ。しかも彼の当直日(1月1日)と交代しなくてもよいという。彼は都合で12月29日を休むため休みに入る30日には患者の指示出し、事務処理などで病院に来なくてはならずしかも時間もかかることからどうせなら当直もした方がいいと判断したとのこと。私はこの1週間で3回当直ときついなあと思っていたので実に有り難かった。そんなわけで今日は仕事でも気分は軽くなったよ。

いろんな患者が来たが今日一番強烈だったのは20才代の働く女性の言動だった。風邪症状で夜になって来院しており、発熱もひどくなくしかも微熱や風邪症状があったのは1週間も前のことでわざわざこの時間帯に来たのはインフルエンザでも心配したのかと推測した。するとやはり調べてくれとのことでほい来たと検査キットで調べ結果を待った。反応は陰性、症状からしてもインフルエンザっぽくはない。それでせっかく来院しているので何か処方をしようとすると、近くの精神科病院でその手の薬はもらっているという。は?ではただインフル心配で来ただけなのと少々と呆れると、「勤め先が体調悪いので休ませてくれといってもさせてもらえず、インフルエンザなら(仕方なく)休ませてくれる」とのことで来たという。風邪などで体調悪く休み希望すればたいていの職場は休ませてくれるはず、私は思わず「おたくの職場、ブラックなの」と尋ねた。「いや、スタッフが口が上手くて『自分らの時は40℃の熱でも出てきたもんだ』とかでなかなか休ませてくれず、下手に休めば罰金もあるんです」とのこと。「それはブラック企業そのものじゃないの。普通、体調不良者は休むのが当たり前で職場もそれを認めるのが当然でしょう」と言った。「そうなんですか」とはあなたもずいぶん人がいい。

本人曰く接客業とは夜の商売でホステスをしていると思われた。休むには医師の診断書があれば可能だろうと数千円お金掛かるがいいかと言うとそうして下さいとのこと。で、かくかくの症状あり休みが必要と私は書き始めた。そして何げに「いったいなんていう店なの」と聞いてからだ、本日一番の驚愕、抱腹、呆然、同情の嵐が吹き荒れたのは。

救急対応室で「店の名前は『四苦八苦タイム』といってー」と語り始め、ひょうひょうとした口調で「店の中ではお触りもあるんです」といきなりだった。ええ?!「上半身裸で男の人にまたがってぇー、ディープキスをしたりー」おいおい、それってエッチなキャバクラじゃないの。私は目を丸くした。天然ボケなのか女の子が言うには恥ずかしいことを何のてらいもなくしゃべるのだ。隣にいたネークチダ看護師は笑いをこらえきれず診察室へ隠れてしまった。

私もいろいろ突っ込みを入れたかったが、でもその後語った内容にそんな気も失せた。彼女が言うには、精神科にも入院したりして生活保護も受けているが母子家庭でお母さんに迷惑をかけられない。その店で2ヶ月頑張って働いていてあと4ヶ月頑張ればそこから抜け出せる。でもこの1週間はきつくて休みたいが休ませてもらえず困ってここに来たのだ、と。ううむ、そうか。傍からは眉をひそめるような仕事でも訳あって頑張っているのだな。営業は12月30日までだそうでその日まで休みを取りたいというのでそこまで安静休養が必要と書いた。身を削るような環境にあるゆえ何とか頑張って欲しいと思った。

診察が終わり一旦医局に帰り、しばし後、また別の患者で呼ばれた際に、ネークチダ君が「先生、ホームページで四苦八苦タイムを見てみたら彼女の源氏名がありましたよ」と言ってきた。へー。それで医局で私もアクセスしてみた。そこには写真があるも顔にぼかしが入り、身長、体型、ボーイの一口紹介コメントが添えられていた。その内容を見ると彼女で間違いなかった。西日本で幅広くチェーン店を展開しているだけあっていい加減なウソはついていないようだ。そして女の子の出勤状況も出ていた。なんと、彼女は出勤していた。ネークチダ君に言うと、帰り際に店の人とやり合っていて休ませてくれそうにないと言っていたとか。何より休めば罰金支払いもあるから押し切られたのか。私の診断書もなめられたものよ。

女性が半ば体を売り笑顔で接客する裏には苦しみ悲しみがある。こんな事情を知れば行く気も失せる(もっとも行ったことなどないのだが)。また、ホームページには別の源氏名に青雲会病院の某看護師と同じ名前があって彼女ではないと分かっていてもすごく嫌な気分になった。自分の娘がいたら絶対に働かせたくはないはず。彼女のこういう世界からの早い脱却を願うばかりだ。

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