2023年6月17日土曜日

「グッチ暗殺事件」

録画しておいたNHKアナザーストーリーズ「グッチ暗殺事件 〜華麗なる一族の崩壊〜」を見た。グッチ(GUCCI)とはブランドに疎い私でも知っているメーカーではあるが、暗殺とはきな臭い話題で、どんな事件だったのか私はまったく知らなかった。

「1995年3月、世界的ブランド「グッチ」の元会長が白昼、殺害された。犯人は一体誰なのか?世間が騒然となる中、浮上した容疑者は・・」という冒頭ですぐに犯人が示唆され、それは「なんと別れた妻、パトリツィア・レッジャーニだった」という。

グッチはイタリアではよくある発展してきた家族経営の企業の一つでミラノが本拠地だ。グッチオ・グッチから始まり三男のアルドは反対を押し切りローマやニューヨーク、パリなどに支店を出し海外進出をさせた。五男のルドルフォは最も父のグッチオに愛され、兄のアルドと均等にグッチの株の配当を受けた。ルドルフォ死後、ルドルフォの一人息子であるマウリツィオに50%の株は相続された。アルドは40%、アルドの3人の息子ジョルジョ、パオロ、ロベルトはそれぞれ3.3%ずつ株を持った。それでこの事件で暗殺されたのが孫にあたるマウリツィオで、その結婚相手がパトリツィア・レッジャーニだった。↓がその二人。彼女は私生児で父親は誰か知らない。皿洗いの母親が運送会社の社長と結婚したことで運命が変わる。グッチ家は当初パトリツィアをお金目当ての女として認めようとしなかった。それは実は当たっていたのだが・・。
その当時の会長はアルド・グッチであったが、3人の息子とうまくいっていなかった。三代目社長になったパオロはグッチの大衆路線に走り、これが会長だった父アルドの逆鱗に触れ社長解任されてしまった。しかしここでパオロは50%の株を持つマウリツィオと組み、父アルドを解任することに成功する。マウリツィオが社長に就くが、アルド側も裁判を起こすなどして一族の財産と経営権を巡る確執は続く。だがパオロはアルドの脱税を告発し有罪判決に持ち込み、80歳過ぎの老いた父親を獄中に送ったのだった。

いやはやまさにドロドロの確執劇といえるが、実はパオロとマウリツィオを共謀させ、二代目社長を辞任に追い込み、自分の夫であるマウリツィオを三代目社長に就かせる計画を企てたのが、"レディーグッチ"ことパトリツィア・レッジャーニだったのだ。しかし彼女は経営にも口を出し、マウリツィオを束縛もする。そのため二人の娘も授かったがやがて別居する。事件数年前にすったもんだの末ようやく離婚となった。だが、このパトリツィアという女性、グッチという名声と財産にものすごい執着があった。マウリツィオは離婚後別の女性と再婚を目論んでいたそうだが、単なる怨恨で元夫を殺そうとは思わない。

きっかけは家族内企業としての経営に限界を感じていたマウリツィオが離婚2年後の1993年に持ち株50%を売って経営権を管理会社に任すという決定をしたことだった。贅沢な生活を愛し、現実から浮世離れしたライフスタイルを放棄しなければいけなくなるというお先真っ暗な将来の見通しに絶望し、一層の事、全て失くして終えとパニックに陥ったようなのだ。そして知人を介しプロの殺し屋に暗殺を依頼し実行に移したのだった。警察は2年に及ぶ捜査でイタリアでは合法の盗聴を利用し、その存在に気がつき、パトリツィアの逮捕に至った。
逮捕連行されている日、彼女は宝石と派手な毛皮を身に着けていた。刑務所に入るので、それらの貴重品や毛皮は家に置いておくように忠告をされたが、パトリツィアは聞き入れず、「私の宝石と私の毛皮は、私が行くところについて来ます」と言い、どこに行こうがレディーグッチを貫いたのだそうだ。29年の刑を言い渡され、結局18年で出獄し現在ミラノで静かに暮らしているとか。ただ、二人の娘たちは母親とは何も関わりたくないと一切の関係を断ち切っているという。この強烈な個性の持ち主の経歴は映画的でもあり「ハウス・オブ・グッチ」として2021年にレディー・ガガ主演で映画にもなっているそうだ。

放送を見て、私はこの前見た韓国ドラマの「財閥家の末息子」との共通点を連想した。ドラマはサムスンがモデルと言われている。初代が築き上げた莫大な財産と経営権をめぐる争いがテーマで、家族経営企業であったグッチとそっくり。二代目長男の息子と結婚する新聞社の娘が出てきてパトリツィアとはタイプが違えど財閥の富と権力を欲しているところなども似ている。主人公が経営権のない三男の息子というところは全く違うが、超巨大企業であるにも関わらず家族経営であればこのような相続にからむ確執や殺人事件が起きるという点が同じだ。最終的に「財閥家の末息子」の財閥も家族経営ではなくなる。企業は巨大化すればするほどファミリービジネスではやっていけないし、一部の家族が財産と経営権を一手に引き受けるなんてことはまず無理なんだ。

最後に現在のパトリツィアの画像を↓に載せる(放送には出てこない)。彼女はサインをするときに、今でも「パトリツィア・レッジャーニ・グッチ」と必ず「グッチ」を付けるそうだ。執念やね。

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