2025年2月15日土曜日

医師はなぜに患者を説得するのか

土曜日で休みだったけれど少しだけ病院に行くことにした。胆石性胆嚢炎で入院させた患者を外科に今後診てもらおうと伝えそびれていたためだ。昨日の夕方にそれを言おうと構えていたが、外科Drは手術中だった。そのうち、下血の救急患者が来てその対応に追われ、約2時間過ぎたら18時過ぎになっていて既に外科Drは帰宅していた。

その胆石の患者さんは水曜の午後来院し、腹痛で3日以上も食事が摂れていない上に、採血結果も炎症反応が極めて高く即入院が必要と私は判断した。当然そう説明したが「どうしても仕事が・・」と入院することに抵抗しなかなかウンと言わなかった。もう70歳代後半というのに仕事熱心なのはすごいことでも、医師としては「ハイそうですか」とは引き下がれない。その人でないと代理が効かず、しかも会社がつぶれる恐れがあり、何十人、何百人という職員らが路頭に迷うくらいの極めて大事な仕事なら私も条件付きで帰宅を許したかもしれない。もし青雲会病院の仕事で私でなければ困る業務のために命をかけて仕事を継続することってあるかな?たぶんない。総理大臣ですら命が掛かっていれば代理を立てそうな気がする。私は入院を説得するのに2、30分は粘った。結局、入院に同意する妻といっしょに廊下に出して外来ベテラン看護師にその後を託した。しばらくしてようやく入院に同意してくれ、私は入院指示を出すことが出来た。

で、内科的治療を施し、ある程度は改善してきているが、根本的には外科的に手術が必要なケースだろうと昨日の午後判断し、外科に依頼するつもりだった。今度の月曜を待ってからでもよかったが、患者さんにすれば2日ほど無駄に時間を過ごすことになり、今日、外科の信号Drに今後の加療を頼んだ。彼はさっそく手術を前提に検査を組み、絶食点滴のままだったからスムーズに検査も進み、結局、月曜午後には手術が決まった。来週は手術の予定が毎日入っていて、月曜は軽めの手術があり、その後に2件目として入れ込んでくれた。わざわざ今日、病院に来た甲斐があったというものだ。

そう、もう一人、これは大腸内視鏡検査だが、それ受けされるための説得に時間がかかった人がいた。昨日のこと、検診で便潜血陽性がありその場合は当然大腸内視鏡検査が必要だ。しかし、比較的若い40歳代の女性が「その検便をした日は生理で出血があったから」と再度検便を希望したというのだ。人間ドックの看護師が「理事長がそれでもええよ」とOKしたというので私に念のため相談に来たのだった。それを私は拒否、「検便の再検は意味がない。有無を言わさず大腸内視鏡を受けるべき」とその患者本人を呼んで説明をした。

そもそもが大腸内視鏡検査というのは、40歳を過ぎて一度も受けていないならば必ず一度は受けるべきものなのだ。症状がなくてもである。なぜなら大腸癌はそのほとんどが無症状で検査をしないとあるかないかがわからない。なぜに最近大腸癌で亡くなる人が多いのか、そして大腸癌で亡くなる人の共通点が一つだけあるがそれはなにか。それは一度も大腸内視鏡を受けていないか、10年以上受けていないかで、つまりは大腸癌を防ぐには大腸内視鏡検査を受けることが一番効果的なのだ。

ならば、国民全員40歳以上になったら大腸内視鏡を受けさせればいい。だが、現実にはそれは無理である。4、5年前にコロナワクチンをほぼ国民全員に接種を受けさせたがそれですら極めて大変であった。それが大腸内視鏡になれば・・やはり無理だ。そこで出来るだけ大腸癌の疑いがある人をセレクトして検査を受けさせようと始まったのが便潜血検査なのである。平成の始めごろから検診事業で始まり、人間ドックなどでも行われるようになった。便潜血陰性の人を大腸内視鏡すると100人に1人も大腸癌は見つからないのに対し、便潜血陽性の人を大腸内視鏡すると鹿児島県で言えば約30人に1人に大腸癌が見つかる。早期癌の比率も高く、大多数の人が内視鏡治療か手術かで助かっている。効率がいいのだ。

しかし、便潜血検査で陰性が出れば安心というわけではないので便潜血検査を繰り返すのはあまり意味がない。医者でもそれをよく理解していないケースもある。便潜血検査はあくまで大腸内視鏡検査を受ける人をセレクトしているだけで、陽性が1回でもあればその後何回陰性が出ても大腸内視鏡を受けるべき人であるのは変わらないのだ。そして陰性でも何らかの腹部症状がある人も大腸内視鏡を受けるべき対象患者になる。前述したが40歳以上(私は30歳以上でもと思っている)で一度も大腸内視鏡を受けていないならば、本来便潜血陽性陰性に関わらず大腸内視鏡を受けるべきである。私が大学病院時代の前の前の教授が便潜血陽性なのをすぐに内視鏡受ければいいのに、これでもかこれでもかと便潜血検査を受け、陽性や陰性がそれぞれ出てうだうだしていたことがあった。結局、大腸内視鏡を受け、早期癌が判明し、ただし内視鏡では切除不能で手術になったのだった。

その女性はなかなかウンと言わず、確かに検査自体が不安なのと面倒くささを感じているようだった。しかし、私は30歳代女性の大腸癌の当院での実例まで出して説明し、ようやく承諾を得た。やはり2、30分はかかったはず。胆石の人も便潜血陽性の人も言えるのは「人の行動を変えさせるのは難しい」ということだ。でも医療はもしかすると本人が思っている以上に命が掛かっていることが多いので、説得力を身につけるのは医師にとって重要である。最近の風潮で、自己責任だから〜と言って簡単な説明で検査や治療を受けようとしない人をそのままにしておくのはいけないと思う。多くの患者さんはそれが大事になるとは思わず、日常生活をこれまでと同じように続けたがる習性がある。その40歳代の女性患者には何事もないことを願うが、もし大腸癌でも見つかれば昨日の説得が一人の命を救ったことになるかもしれない。つまりは医師というのは人の命に関わるやりがいのある仕事ってことなのだ。

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