うちでもまずは採血をチェックし、点滴もつないだ。すぐにCTを行うには私が忙しく、しばし待機してもらった。後で患者さんを診察し、採血結果がまったく異常ないのを確認したところで、私も「はて?」となった。虫垂炎や胆石でないのはほぼ間違いなく他に若い男性が腹痛、嘔吐を起こす病気は何かな・・。本人と話をしているうちに昨日のクリニックでの検尿で「ケトンが陽性だった」との情報を得た。ケトンだって?糖分を利用出来ない1型糖尿病の患者さんにはたまにあるが、だとしたらもっと重症感があるはず。子どもに多いアセトン血性嘔吐症(自家中毒とも言う)か?で、検尿を調べるとケトン体(アセトン)が3+もあった。これはー。
以上で一段落したかと思っていた。しかし昨日、やはり腹痛嘔吐が治まらないと来院し、入院することになって、私が当然主治医になるはずが、どうにも忙しく東洋Drに頼んだ。東洋Drは「点滴をしておけばよくなるでしょ」と軽く引き受けてくれたのだった。うーん、1日も経てば治ると思ったのだがなー。だがその夜当直の貴文Drは男性が痛みを強く訴えるため呼ばれたらしい。ま、痛み止めで落ち着いたのは良かったが、これは一度内視鏡をしなくてはと主治医の東洋Drが昼前になって施行すると・・。
なんと、立派な十二指腸潰瘍があったのだった。その結果に東洋Drも私もあきれ、苦笑いをするしかなかった。普通に考えれば真っ先にこの病気を考えても良さそうなのにー。紹介したおせちDrも私も東洋Drもなぜかこの病気を無意識に外していたのだ。昔、といっても2、30年前までは若者には十二指腸潰瘍はよくある病気で特に珍しくなかった。実は十二指腸潰瘍をくり返す人はほとんどピロリ菌を持っていて除菌をするとピタッと出なくなる。しかし最近の20代はピロリ菌陽性者は5%くらいのもので当然十二指腸潰瘍も見なくなっていた。
夕方、おせちDrから電話があった。私の返書が届いたらしい。「いやー(アセトン血性嘔吐症とは)気づきませんでした」だったが、私は頭かきかき「だよなー、なかなかその診断には気づきにくいよな。ま、確かにアセトン血性嘔吐はあったけど、実はその後入院して調べると十二指腸潰瘍があったのよ」と言うと「へ?」とおせち君。彼も私も消化器の専門医だ。なんで基本的な病気である十二指腸潰瘍を思いつかなかったのか。一つはこの患者さんが午後にばかり受診していて内視鏡を組むことが出来なかったこと(今の時期、内視鏡検査予約がいっぱいだったこともある)、エコーやCTでは十二指腸潰瘍は診断しづらいこと、鎮痛剤も飲んでおらずピロリ菌も陰性だったこと(どちらも潰瘍を誘発しやすい)、潰瘍に付随する貧血もなかったことなどがあろう。しかしエアポケットに入ってしまい、うっかりだったと言われても仕方ない。
アセトン血性嘔吐症は十二指腸潰瘍によって食事を摂っていなかったことの結果であって原因ではなかった。2日前に自信をもって返書を書いた自分がちょっぴり恥ずかしくもあったな。反省!
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