もう一つ、韓ドラネタ。今年から集中的に見ているタイムスリップ物の8作目「トンネル(日本題名は『愛の迷宮ートンネルー』:2017)」を今日見終わった。殺伐とした作品はしばらく見たくないと思っていたが予想よりずっといいドラマだった(ただし日本タイトルの「愛の迷宮」は内容を反映していないし三流エロ映画みたいで全くダメ。そのまま「トンネル」でよかった)。ジャンルはサスペンス、刑事物で、この前も書いたとおり、現実世界で起きた連続強姦殺人未解決事件「華城(ファソン)連続殺人事件」をモチーフにしている。名作「シグナル(2016)」において過去から未来には行けなかったイ・ジェハン刑事(チェ・ジニョク)がやって来たという設定が「トンネル」だと思えばいい。「トンネル」では30年後でも刑事として活躍出来るようにパク・グァンホという同姓同名の若手刑事が移動でやってくるはずが行方不明になり代わりに警察署に勤務する羽目になるという設定になっていた。
少し面白いのは「シグナル」のイ・ジェハン刑事が憧れる初恋の女性役と「トンネル」のパク・グァンホ刑事が結婚する女性役がまったく同じイ・シアという女優だったこと。彼女は「シグナル」に続いて「トンネル」に出演した。はかなげで清楚なイメージ、そして不器用な刑事に愛されるという役にぴったりではあった。
新婚ほやほやのパク・グァンホ刑事は妻への思いを抱きながら30年前の事件への解決のため奔走する。そして妻は20年ほど前に交通事故ですでに死んでいたことを知る。当然過去に戻りたいといろいろ試すも上手くいかない。終盤に近づき過去に戻って妻と再会出来るのかも見所の一つだった。
さらに「トンネル」で思わずニヤリとしたのは作者がおそらくはミステリ好きなところだ。パク・グァンホ刑事とコンビを組む(ことになる)キム・ソンジェ刑事は大雨で交通手段がなくなり電波も届かなくなる山中のドライブインに閉じ込められるがそこに数人の互いに関係のない男女も閉じ込められる。するとドライブインのトイレで殺人事件が起きていたことが判明する。状況から犯人はこの中にいるという、なんとまあ、いわゆる「吹雪の山荘」パターン、クローズド・サークルを持ち込んで来た。この手のパターンは名作も多く、古くはアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」「オリエント急行殺人事件」、坂口安吾の「不連続殺人事件」、最近の日本では綾辻行人の「十角館の殺人」ほか多数ある。長編の中に短編を持ち込んで来ていて、しかし犯人の動機がいかにも韓国社会ではありそうな事件をモチーフにしているなと思わせ、単なるお遊びではなかった。もう一つはダイイング・メッセージだ。ドラマ途中で自殺する人物がパク・グァンホ刑事に真犯人につながるキーワードと暗示して「NOEL(ノエル)」という文字を残す。このパターンもミステリには多い。
「シグナル」では過去と現在にまたがる事件をいくつも提示しその底流にある社会の不正や不平等を批判するテーマがあったが、「トンネル」でも一応それはあるがより一刑事の生き様を描く方に力を入れている。同じ事件のポン・ジュノ監督作「殺人の追憶(2003)」では当時の警察の捜査法への批判がテーマの一つだ。同じ事件をモチーフにしても作品ごとにテーマは微妙に違う。それにしてもこれだけドラマ・映画に扱われる華城連続殺人事件とはすごい事件だった。少なくとも10人の女性を強姦殺人し30年近く未解決だったとなれば確かにそうなるかも。2019年に真犯人が特定されたからといっても「殺人の追憶」の価値が下がるわけでもないし、それならそれでまた別のテーマで別の作品が出来るかもしれない。
あれれ、本当は夜T-MAXで練習したボウリングの話を書くつもりだったが、話の枕が本題に入れ替わってしまったヨ。
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