午後はオマルDrが救急当番だったがちょうど内視鏡検査の最中だったので私が代わって診た。50才代の女性で呼吸困難という触れ込みだった。でも見た目、血中酸素濃度、診察をし過換気症候群であると私は断定し心配ないと本人と家族に説明した。
過換気症候群は患者側と医療側にかなり乖離のある疾患だ。この病気で救急で運ばれてくるケースは月に何度もある。急な呼吸困難を起こせば本人も周囲もそれは心配する。しかし医療側が出来ることはほとんどなく寝かせて自然と回復するのを待つくらい。せいぜいかつて世間的には今でも使われるペーパーバッグ法という自分の吐く息を吸う方法ぐらいしかない(現在では弊害もありあまり勧められない)。ただ「このまま寝ていていいんですよ」と説明をしてもすぐには信じてもらえないこともある。パルスオキシメーターはそんな時に役に立ち、「ほらこんなに苦しがっていても実は酸素は逆に増えている。本当に命にかかわる呼吸困難ではこの数値が低くなるんです」とパラドックスのようなこの病気の説明をし、酸素濃度が正常値になるのを待って帰宅させるのだ。
さらにもう一つ、過換気症候群を起こす人は精神的に不安を抱えやすい若い女性が多い。彼女らは発作が起きた時に「もしかしたら自分は死ぬのではないか」という思いにかられますます呼吸を急くことになる。この中年女性にあなたもそうではなかったかと尋ねてみた。すると、ハッとしたように「そうなんです。それが不安で不安でー」と吐露した。そう思ったことが症状をますますひどくしたのだと教えると「そうかぁー」と安心したように肯いた。死への不安がきっかけなので例え呼吸困難になっても死ぬことはないんだと思う癖を付けるようにすれば今後はおそらく大丈夫だ。
帰りがけ、ここに運ばれて良かったぐらいのことを感謝され、この手の患者さんには深層心理を理解してアドバイスすることが大事なんだと思った次第。
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