2014年6月1日日曜日

あなたは豊かな資産に気付いていない

『抽象的な質問なんですけど、漠然たる不安を感じています。これを打ち払うにはどうすればよいでしょうか。』

こんな質問を内田樹氏が受けた。これに対する氏の答えの中に思わずそうだそうだよねえと肯かざるを得ない内容があったので紹介しよう。

『・・・確かに原発事故処理も震災からの復興も遅れているし、首都圏直下型地震や南海トラフ地震がいつ来るかわからないし、解釈改憲で戦争に巻き込まれるリスクも高まっているし、国の赤字は積もる一方だし・・。いろいろ不安のたねはあります。でも、この程度の国なら他にいくらもありますよ。だから、そんなに心配しなくても大丈夫です。

心配しているような「思いがけないこと」が来ないと言っているんじゃありません。それはやっぱり来るんです。そして、システムががたがたになる。これは避けようがない。でも、日本は他の国とくらべると「負けしろ」の厚さがだいぶ違いますから。地震が来ようが、国債が暴落しようが、年金制度が崩壊しようが、そのときはそのとき、国が破れても山河が残っている限りは大丈夫です。なんとかなります。』

「なんとかなる」それは我が日本には「負けしろ」があるからだと言われる。で、その負けしろとはなんぞやと以下に解説するのだが、これが納得なんだ。

『それは豊かな自然です。国土の68%が森林なんです。これほどの森林率の国は先進国にはノルウェー以外にありません。多様な植生があり、さまざまな動物が繁殖し、きれいな水があふれるように流れ、強い風がよどんだ大気を吹き払う。日本のこの自然環境には値札がつけられません。

経済の話をするとき、エコノミストはみんな「フロー」の話しかしません。でも、日本には「眼に見えないストック」があります。目の前にあるのでありがたみがわからないのですけれど、改めてそれを金を出して買おうとしたら1000兆円出しても買えないような資産です。それはまず自然資源です。飲料水がいくらでも湧き出ている。水のほとんどをマレーシアから輸入しているシンガポールから見たら羨ましくなるほどの資産です。でも、日本人は自分たちがそんな豊かな資産を享受していることを知りません。

第二が銃による犯罪がほとんどないこと。アメリカは銃で年間3万人が死んでいます。一昨年、日本では銃による死者は年間4人でした。殺人発生件数もほぼ世界最低です。このレベルの治安を仮にアメリカやメキシコやブラジルで実現しようとしたら国が破産するほどの天文学的なコストを要するでしょう。
それだけの資産がとりあえずここにある。
その他に温泉もあるし、神社仏閣もあるし、伝統芸能もあるし、ご飯は美味しいし、接客サービスは世界一だし・・・、国民的な「ストック」はさまざまにあるわけです。

でも、経済成長論者の方たちはこのストックをゼロ査定しておいて、フローがないカネがないと騒いでいる。日本がほんとうは豊かな国であること、みんなでフェアにわかち合えば、ずいぶん愉快に暮らせることをひた隠しにしている。そして、経済成長しなかったらもすぐに国が滅びるというような煽りをしている。

だから、原発は再稼働するしかない、消費増税もするしかない、賃金も下げるしかない・・・と勝手なことを言っています。でも、彼らは日本には豊かな山河と文化的蓄積があることを故意に言い落とします。それをたいせつに使っていれば、別にシンガポールのような自転車操業をする必要なんかないということは決して言わない。水も食べ物もエネルギーもすべて金を出して買わないと生きてゆけない国と比べて「経済成長への熱意が足りない」と言うのははなから無理なんです。

麻雀で点棒が5万点ある人と、箱シタの人では打ち方が違うじゃないですか。箱シタは「後がない」から、ハイリスク・ハイリターンな打ち方をするしかない。点棒がざくざくある人はリスクは冒さないで、高い手も安手も自由自在に打ち回せる。「金持ち喧嘩せず」です。でも、だいたい金持ちが勝つんです。経済成長論者は「それがイヤだ」と言っているんです。もっとひりひりするようなバクチを打ちたい、と。そのためには「点棒」を一度全部失った方がいいと(無意識に)思っている。

だからこそ彼らは原発を稼働したがるんです。うまくすればもう一度事故が起きて、国が破れたとき「帰るべき山河」さえ失われるから。だからこそ移民を入れたがるんです。うまくすれば国内の治安が悪化して、暴力的な排外主義運動や民族対立が起きるから。だからこそカジノを作りたがる。うまくすれば勤勉な労働者たちが一攫千金を夢見て、眼を血走らせてバクチにのめりこみ家産を失ってホームレスになるから。

ほんとうにそうなることを経済成長論者は願っているんです。そうなれば日本の「負けしろ」はなくなり、彼らが夢見る「シンガポールみたいな国」になる他なくなりますから。
ですから、どうせ 「不安」を抱くとしたら、日本が向っているこのような未来について不安を抱く方がいいと思いますよ。』

氏は護憲、反原発派、それに麻雀好きというのがすぐに分かるがそれはおいてても現在の日本が如何に恵まれた「資産」を持っているか言われてみてハタと気付かされる。実は素晴らしい環境にあることに我々は気付きにくいもの。現状の不満なんてそう大したことはない、ふと周りを見渡せばそういうことなんじゃないだろうか。

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