平日休み明けは忙しい。病棟患者の指示出しやら非常勤当直からの入院依頼やら新患やらと一気に仕事が入ってくる。それに脳外科のポンシンDrがインフルエンザにやられて昨日から休んでいるしー。それでもどうにか午前の仕事をこなし、午後は少しヒマになるかと思っていた。特に内視鏡室スタッフは頑張っていた。というのも19時から内視鏡室スタッフだけの新年会を鹿児島市内で行う予定だったからだ。ブックリバーDrが樋之口町の「千里」というワインと餃子がメインの店を予約していた。餃子大好きのムッちゃんNsなんか張り切っていたよ。
でも少しだけ気がかりなのが緊急内視鏡だ。これがあるとスタッフ最低3人は取られてしまう。ムッちゃんやシホねえNsは「こんな時、大腸憩室出血みたいな緊急下血などが来なければいいがねー」と危惧していた。そんな折り、近隣のオダネストDrから電話が掛かってきた。何と、直腸内異物を内視鏡で摘出してくれないかとのこと。その時私は「シャワーキャップ」と聞き違えてしまった。何でそんなものをと思ったが先輩Drの依頼だし異物除去はそこそこ経験しているので即OKした。ちょうど昼休みが過ぎようというときで昼食を摂る前に外来のニッシNsにかくかくしかじかの患者がやって来るから内視鏡室スタッフに連絡し検査準備するよう連絡しておいた。
さあてそれから1時間もしないうちにこの話があっという間に主に看護師の間で広まっていた。ちょうど昼休み女子休憩室の格好の話題になったようだ。「シャワーキャップですって?」「何でそれがお尻の中に入っているの?」「内視鏡で取れるの?」わーわーきゃーきゃー。やがてその患者が来院しすぐに内視鏡前処置に入った。で、問診で私の勘違いが判明した。直腸に入って取れなくなったのは「シャンプーのキャップ」ということだった。「風呂場でそれを置いたところ間違って座りすぽっと入ってしまった」とは初老男性患者の弁である。はて?紹介状にもオダネストDrがそれについてはやや疑問視していた。私もそうだ。そこはまあいいとしてまず検査前に直腸診をすると、確かにそれらしきキャップが手に触れ、もう少しで排出出来そうだったのだが、肛門より径が大きくうまく取り出せなかった。後から思えばこの時直線形のケリー鉗子か何かでつかんで取り出せばよかったのだが、内視鏡医の性(さが)でスコープを突っ込んで取ろうとした。
ここから半地獄で思えばまだ憩室出血の方がましだった。透明の半ドーム状のキャップらしき異物が直腸奥に移動してしまい、把持鉗子で掴んでも粘膜にひっかかりどうにも引き戻せない。聞けば4日前にこうした事態になっていて肛門近くの直腸粘膜は潰瘍を形成していた。それで痛みも強くとっても苦しそうだ。肛門鏡を使う方がまだ良さそう。しかし相当痛みも伴うのでここは外科Drに任せるしかない。それで信号Drに頼むと、即引き受けてくれ、「手術室で全身麻酔をして取りましょう」とのことだった。おやおや、だいぶ大ごとになってきた。そうか、私は以前大腸肛門の専門病院のサメ肛先輩から直腸異物は下手すると手術し人口肛門にまでなるケースもあると聞いていた。それにビックリするよう異物が偶然か意図的か直腸に入れられることがあるとも・・。でも、今回はそこまでにはなるまいと後を外科に託した。
その後も忙しく外来をしていた。1時間ほど経った頃、手術室から連絡が入り、至急術中大腸内視鏡をしてくれとのことだ。ううむ、虫垂炎疑いの患者もいるのだが・・それは非常勤の並ぶんDrに頼み、久々に手術室に入った。ムッちゃんやシホねえNsもいた。内視鏡観察で異物が直腸の奥(Rs部)にすっぽり嵌まりどうにも掴むのも難しい状態という。私が内視鏡挿入し把持鉗子で掴んでたぐり寄せようにも動かない。キャップの奥にスコープを持っていこうにも無理。別室からキブンDrも来て指を入れ直に引き寄せようとするも触れるのみで無理。あの手この手のアイデアをみんなで出し合うも決定打がなく、結局愚直に内視鏡の把持鉗子で引けるだけ引き、信号Drが鉗子を入れモニターと直視でキャップの辺縁を掴もうとやってみた。すると1ヶ所掴めた。しかしこれだけでは引き切れない。最低もう1ヶ所か2ヶ所掴む必要がある。信号Drが根性で(まさにこの言葉がふさわしい)ケリー鉗子で掴み少しずつ肛門へたぐり寄せた。16時くらいに始まった手術はすでに18時半を過ぎていた。ようやくキャップの縁が肛門に見え、取り出せそうとなった。そこは手術室のカメラで撮影し、私もマイデジカメを取りだし撮影した。信号Drが取りだし成功した瞬間、周囲は歓声と拍手!ふーう。いやー、2時間半もかかるとは。でもよかった、大きな手術にならずに。(画像を載せたいが個人情報でもありそれは出来ない)
そうそう、新年会開始時刻には間に合いそうもない。病棟に行き最低限やるべき仕事を済ませ直接天文館に向かった。店に着いたのは20時22分。すでに一飲み一食べ済んでいてブックリバーDr以下コッパマ、湖西種実、佳及、服緑Nsらが歓談していた。ムッちゃん、シホねえNsは私より7、8分遅れで来た。さあて仕切り直しだ。ビールジョッキで乾杯!早速話のタネはさっきまでのキャップ異物摘出の一件。なぜにそんなものが肛門から直腸に入っていたのか?本人の言い訳をムッちゃんNsは信じていたようだが、私はその見解には真っ向から反対した。患者はウソをついている。あれはシャンプーのキャップですらないと。なぜなのかはあまりこの場で書くわけにはいかない。実際の診療の場では後で聞くと本人の言い分を尊重したということだ。それはそれで致し方ないだろう。ただ本人が思っているより直腸異物を来すことはずっと危険であるとは強調しておきたい。肛門に異物を近づけてはならないのだ。たとえシャンプーのキャップ(のようなもの)でもネ。
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