2023年12月13日水曜日

生き仏

4階病棟のナースステーションに行ったら、車椅子に座ってじっとしている高齢女性がいた。少しうつむき加減で目を閉じてじっとしている。

「さっきまでは部屋で大声を出していたのでここに連れてきたんですけど、来たらすっかりおとなしくなってしまって」と隣の看護師が教えてくれた。「ほう。何歳くらいの人?」「98歳です。名前がちょっと読めなくて・・」というから確かめると、「稗田〇〇〇」さんで「ああ、ヒエダさんなんだね。これは昔からある由緒ある姓だよ」というと「へーえ、全く知りませんでした」とのこと。「いや、日本史を習ったことがあるなら古事記を編纂した「稗田阿礼(ひえだ の あれ)」って聞いたことない?」「いいえ」「うーむ、中学か高校あたりで習うんだけどね」確かに日本史の飛鳥時代や奈良時代のこんな細かい人物名は知らない人の方が多いだろう。まあ阪神ファンなら「A.R.E(アレ)なら知っているゾ」と言いそうだが・・。

それはともかく、私はそのうつむき加減の様子が「なんか半跏思惟像(はんかしゆいぞう)に似ていないか」とまた小難しいことを言った。きっと分からないだろうとは思ったが、飛鳥奈良時代によく作られた仏像を連想してしまったんでネ。↓の上が広隆寺の「弥勒菩薩半跏思惟像」で下が中宮寺の「菩薩半跏思惟像」だ。
看護師は予想通り「?」という表情だ。まあ分からなくても上の写真の仏像の持つ慈悲あふれて思慮深い表情には何かを感じるはずだ。

人間も100歳を前にするとこんな表情ができるのかと思った。そんな話をしていると、その稗田の98歳は目が覚めたようだった。その瞬間の表情がまた・・・
まさにアルカイックスマイル、飛鳥奈良時代の仏像の表情だ。人は年を取れば生き仏になるんだと思ったよ。

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