今日の外来では非常に印象に残る症例を経験した。その患者さんは60歳代の女性でMR内科から2週間前に精査加療依頼で紹介された人だった。
3月初めから37°C台の微熱と上腹部違和感、食欲不振があり、採血では白血球が1万程度、炎症反応のCRPが高めの10前後ということだった。そして抗生剤を処方したが良くならないとのこと。当院での採血でもほぼ同様だった。CT撮っても特に発熱の原因たる所見は得られず、試しに抗生剤点滴とステロイド点滴を外来で実施してみた。数日後、症状は一時良くなったがまだかなり残っているといい、採血もわずかにCRPが下がった程度だった。しかも、夜から朝にかけてふくらはぎが痛む、両肩が痛いという症状のきつさを訴えていた。この人に抗生剤はやはり効かない。では、どんな病態なのか私自身も判然としてないが、経験的にステロイド内服が効くと思われ、プレドニゾロンを10日間試してみた。1日3錠15mgから漸減して最後は1日1錠5mgになるように処方した。
そして今日の診察前に採血も指示していた。結果はCRPがやはり10前後で改善していない。病状経過を聞いても「最初のころは症状が軽くなったが内服が1錠になると痛みがまたひどくなってきた」とのことだ。うーん、困った。原因ははっきりせずとも症状が治癒するケースを狙ったのだが・・。MR内科への返書もこれではとても満足できるものになりやしない。どこか、より専門的に精査し治療出来る医療機関に紹介しようと思った。しかし、はたしてどこが良いのかそれすら悩んだ。そもそもこの病態、いわゆる膠原病の一種と私は考えた。リウマチか血管炎か原因不明の炎症疾患である。それで最初は鹿児島市内の大病院でそんな難病系の疾患を診てくれるところを調べた。大学病院ならいいかもしれないが受診するまでに時間が掛かりそうだし、姶良からは遠くもある。患者さんは「鹿児島市立病院は?」と言ってきたが今一つぴったりする診療科を見つけられなかった。
そうだ、同じ姶良市内で同級生の名月Drにいい医療機関はないか相談してみよう。彼は循環器内科でもあるがリウマチも専門にしてクリニックを開業している。電話をかけると「ああ、こてる先生、いつもお世話になってます」と言われ「こちらこそ。ちょっと診断に悩んでいる患者さんがいるんだが・・」と私はこの人の病歴と治療歴を簡潔に伝えた。すると、だ。「ああ、それ、〇〇〇の典型だよ。うちで診ようか」と言うではないか。は?!と思って慌ててネットで検索してみてびっくり。確かにこの患者さんの症状、検査結果にぴったりではないか。それで名月クリニックへの紹介状を書き、明日午前に診察してもらえるようにし、外来診察を終えたのだった。
その疾患は① 50歳以上 ② 両肩の痛み ③炎症反応( CRPまたは赤沈)の上昇を満たすことが必須条件で、さらに臨床症状(45分以上持続する朝のこわばり、臀部痛または股関節の可動域制限、肩関節と股関節以外に関節症状がない)などの症状と治療では第一選択薬は副腎皮質ステロイドで、一般にプレドニゾロン10~20mg/日程度の少量ステロイドが使用され、ステロイド反応性は比較的良好だが、ステロイド減量中の再燃もあると書かれてあった。びっくりするほど一致しているではないか。知っているドクターや医学生なら簡単な診断かもしれない。聞いたことのある病名だったが恥ずかしながら私はその病名にはたどり着けなかった。名月Drは「PMRだよ」と即断だった。PMRとはpolymyalgia rheumaticaの略で「リウマチ性多発筋痛症」と訳される原因不明の疾患だ。リウマチの名前があるがいわゆる関節リウマチと違って手や指の関節の腫脹を呈する例は少ない。いや、相談して良かった。患者さんにとっても近くの医療機関で明日には即治療に入れる。病診連携の極みだ。私も病名にはたどり着けずとも遠からずだったな。今度この手の患者さんが来たら即答できるようになろう。ただ、MR内科には、さも自分が診断できたかのように返書を郵送したのだった。へへ。
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