月曜午前の救急ピッチ当番は泌尿器科の合い言葉Drだ。その彼から「救急患者を引き継いで欲しい」と依頼があった。どんな患者さんなのかと聞けばこれがまたちょっとひどい状況の人だった。高齢男性で自宅では意識もあったようだが、救急車に収容直後に心肺停止状態になり病院到着後気管挿管から人工呼吸、もちろん心臓マッサージをしてどうにか心臓は動くようになった。なぜに心肺停止になったかはすぐに原因は分からないが、見た目黄疸がひどく採血すると、総ビリルビンが25前後まで上昇していた。腹部CTでどうも総胆管下部に何か怪しい影があるとのことで私に連絡が入ったというわけだ。
話を聞いただけで下部胆管か十二指腸乳頭に癌があっての沙汰と推測が付く。患者さんを見てみたらまずは黄疸のひどさに目が行った。これは採血をしなくても重症黄疸とわかるほど。奥さんに尋ねると先月からそうだったとか。バイタルが落ち着いていれば内視鏡で減黄処置も出来るしそうして上げたいが、いかんせん血圧も低く、人工呼吸の状態では無理だろう。処置中に心臓が止まりそうだ。「もう少し状態が落ち着けばすぐにでも黄疸を改善して上げたいが」と説明し、まずは入院してもらいましょうと指示を出した。で、他院に掛かっていたようで奥さんに詳しく聞いてみた。すると、1月31日の採血データを見せてくれた。驚いた。その時すでに総ビリルビンが26もあるじゃないか。「これは・・」すぐに消化器内科受診を勧められなかったかと尋ねると、そこの担当医は「このあたりでは青雲会病院に行った方がいい」とは言ってくれたようだ。だが、本人が病院には行きたがらず2週間近くも放置してしまったんだそうだ。ううむ、もう少し強く勧めるか、情報提供書でも書いてくれれば奥さんも嫌がる夫を連れてこようとしたかもしれない。その頃ならこんなになる前に減黄処置が出来たはずなのに・・。で、「この1日2日で亡くなる可能性が高い」と話し、兄弟や親戚にもすぐに連絡してあげなさいと伝えた。
黄疸を放置すると様々な臓器障害を起こす。その指数であるビリルビンは正常値が1前後でそれが20以上というのは極めて高い数値だ。それを2週間も放置していたら肝障害だけでなく細菌感染、脳の障害などで命に関わるのは必定だ。採血を見た担当医も専門外のせいか「命に関わる」という言葉を発せられなかったのかもしれない・・。結局、日付が変わった直後にこの患者さんは亡くなってしまった。
病院に行きたがらない人ってのは結局重症化して運ばれるケースが多い。だから「あなたまた来たの。この前も検査して大丈夫だって言ったでしょ」などとうるさがられる患者さんの方が、病院にとっても本人にとっても結局はいいことが多い。「死んでも病院には行かないっていう人」は、結局、死ぬ前に病院に運ばれてしまい、結局助けられずに亡くなってしまうことがよくある。頑固さは時に命取りになる。前にも書いたが、イギリスのことわざ「頑固な人は頑固な病気に罹る」は金言だわ。
夜、見せたまえDrからLINEがあった。「おかげさまでおふくろは持ち直し今は安定しております。じゃっで麻雀早よすっど。よろしく!」だって。はあ?危篤じゃなかったんかい。本当の危篤ってのは今日の患者さんのようなを言うのよ・・だろ?
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