午前は内視鏡担当でいつものように粛々と胃カメラをやっていた。内視鏡室スタッフが「今日はかなり検査が多いです」と言うので、それはいつものことと予約欄を確認すると30名は楽に越え正午を過ぎてもまだ終わらない。確か1日の過去最高件数は35か36あたりだったと記憶しているが今日はすでにそれを越えていた。13時くらいにようやく終わりきちんと数えてみると39件。うわ、40件まであと1人かぁ。
看護師の誰かが「ERCPの1件を入れたら40件ですよ」と言うが、私は「いや、純粋に胃カメラだけでの人数でこれまで40件を越えたことはないはず」とこだわった。それでも過去最高なのは間違いない。これも内視鏡医3人体制になったために人間ドックの胃カメラ予約枠を6月から3件増やしたからで、そこにたまたま外来の胃カメラが重なったからだ。今後も30人から40人程度で推移していき、今年度は過去最高件数更新は間違いないわ。
さて夕方も近づいたころ、近くの愛乱病院から内視鏡の依頼があった。入院患者が昼過ぎに乾電池1個を飲み込んだ、レントゲンではまだ胃の中にある、摘出をお願いしたいということだ。あは?またか。1年か2年に1回はそんな依頼がある。で、患者名を聞きカルテで調べると案の定この患者は過去2回2011年、2013年に電池呑み込み事件を起こしていた。その前にも別の患者が2回起こしている。まあ、そのおかげで当初は時間がかかっていた電池取り出しも私はうまくなってきた。
今回は食後なのでまずは電池を見つけられるかどうかが一番の問題でこれはどろどろになった食事内容物をフード先端でかき分けどうにか見つけた。このあとはトラペゾイド鉗子で電池をつかむ。通常のバスケット鉗子ではつかみが弱い。ただ単4電池なのは有り難かった。もっと太いものだと、引き上げるとき、胃食道の狭い境界部を抜ける時に接触のせいでずれ落ちやすいからだ。この患者の最初の時は10回以上失敗し1時間を越えへとへとになったものだ。でも今回は一発で成功。記念に電池も撮影。いつも撮るのは「飲み込んだ場合はすぐに医師に相談する」の文言だ。
もう今回は飲むんじゃないよとは言わなかった。それは2回目の時に言って諭したつもりだ。何か嫌なことがあったとき、この手の患者は自己嫌悪感にとらわれ、何もかも嫌、自分をめちゃくちゃにしたい、傷つけたいという心理状態に陥る。人によってはリストカットをしたりするが電池飲み込むタイプもいるわけだ。電池は胃内ならこうして取り出せるけど小腸にまで入ると難しくなる。まれに腸穿孔もあるからこわい。でも人によってはスポンジ状のものを飲み込んで開腹手術で取り出したケースもある。その患者はその時は助けられたが結局またやってしまってついには亡くなった。こうなると、内科や外科のDrでは難しい。精神科の専門医でもなかなか治せない、この手の精神疾患、私が出来るのは迅速に胃の中から取り出すことくらい、そう割り切っている。
おっとそうだ、この患者でぴったし40件。記録は大台に乗ってしまった。すぐに相談に来てくれてありがとう。
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