で、その北山はこれまでも何回が行ったことがある、姶良の奥にあるいわゆる僻地だ。青雲会病院は僻地診療も担っている。事務のジュリナガさんの運転する車に乗って25分くらいで着く。直前、「あら、キジが歩いている」とジュリナガさんが驚いて車を止めた。確かに道路をすたすたとキジが歩いていた。飼われているわけでもないだろうがさすが北山だ。ただこの直後、ヘビがとぐろを巻いていたのを彼女は私に言わなかった。言わないでよかったよ、大嫌いだから。
外来患者数人を診察し夕方から往診に出かけた。往診って私は久しぶり。以前は訪問診療を受け持っていて姶良や蒲生の田舎をあちこち回ったものだ。ただ北山の患者はケーワンDrが担当していて一度も来たことがなかった。最初に訪問したところは比較的近くで親娘で住んでいる一軒家で80代の老女が迎えてくれた。在宅酸素が必要な人だが「チューブが煩わしてくて」とその時は外していた。聴診のあと「煮しめを食べやんせ」と皿を出してきた。うーむ、私はあまり煮しめは好きでないし間食禁止を課しているから食べたくはなかった。でも全く手をつけないのも悪いので少しだけ食べたけどね。ところが看護師の二人は全部平らげた。彼女ら仕事で鹿児島に行っていて昼食もほとんど摂っていなかったらしい。渡りに船とはこのことか。
帰りに庭の小屋を見ると使われなくなった風呂やトイレが残っており、私は50年前の田舎の実家を思い出した。外で用を足さねばならず風呂は薪で焚く昔の日本の痕跡がここにはある。このあと狭い道をくぐり抜け数件回ったがどこも老人が一人(配偶者は入院したり施設に入ったり)でいわゆる限界集落、いや10年も経てば廃集落になるんではないかと思われた。だって若い人が敢えてここに住む理由がないものね。北山といっても診療所のあたりは小学校や天文台(スターランドAIRA)もあり青雲のまっちんNsは家も建てたししばらくは大丈夫だろう。診療所看護師に聞くと、「まだこのあたりよりすごいところがあります」という。何キロも奥には、車で入れず自家製(!)のトンネルを掘っているところもあるだとか。道路に幟(のぼり)が掛けられてあって「姶良のすんくじら 北山上自治会 れんげの里プロジェクト」とあった。みずから「隅っこ」と自虐的な言い方をし、れんげが咲く田んぼをアピールしていた。
著者は兵庫医科大皮膚科の准教授「夏秋優」先生。「なつあき」とはまたこの本にぴったりの名字だ。私とほぼ同世代で子どもの頃から虫取りが大好きだったそうでどうも趣味が高じてこの世界に入った印象。マダニの取り方など参考になったしまだ読んでいたかったが、17時になりお迎えの車が来てしばしの僻地診療は終わったのだった。
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