2016年7月17日日曜日

「青ベか物語」

長島のクリニックの診療の合間にしていたもう一つのこと、それは新潮文庫の山本周五郎作「青ベか物語」を読み始めたことだった。クリニックのバタフジDrはパソコンやネットなどにはほとんど興味がない質(たち)で当然無線LANなどというシステムは院内には導入されていなかった。そこで私は暇つぶしのためにこの文庫本を持っていったのだ。

山本周五郎といえばずっと以前からその名前は知ってはいて代表作に「さぶ」「樅の木は残った」などがあり「赤ひげ診療譚」「青ベか物語」も名前は知っていた。黒澤明映画をよく見ていたので「赤ひげ」や「椿三十郎(「日々平安」が原作)」「どですかでん(「季節のない街」が原作)」などが映画原作になっていたからだ。それがきっかけか覚えていないが2003年7月9日に「赤ひげ」と「青ベか」を加治木の「さんかく」ブックスで購入していた。で、翌々日の7月11日に「青ベか」の出だし「はじめに」の章を読んだもののその後はぱったりだった。今はディズニーランドの場所として有名な千葉の浦安(本では「浦粕」)の昭和初期が舞台になっていると知ったのであるが、自宅にいるとネットにTVにビデオにと刺激的でやることがいっぱいありそのまま本棚の飾りになっていた。いや、飾りよりもひどくなぜか本の下半分は水に濡れてしまっていて固く波打ってしまっていた。読みにくいが読めないこともないか。

「青ベか」とは小さな「ぶっくれ舟」のことで出来損ないの舟だったが土地の狡猾なじいさんにうまく買わされ釣りや読書をするなどして作者はすごそうと観念する。そしてこの土地の人間やその生活ぶりを観察したものを数ページの30章ほどの短編にしたものが「青ベか物語」である。「蜜柑の木」がその最初のネタであるがこれが面白い。19才の純な青年が所帯持ちの30過ぎの女に惚れてしまいその後の顛末が描かれている。当時の漁村の風俗風習がリアルでいかにもありそうな話しだ。落ちも効いている。短編集の第二話にこの話しを持って来たのはいいね。阿刀田高が「短編集は第二話に一番面白い、自信作を持ってくるべき」と自身の短編集「ナポレオン狂」を例に出して語っていたのを思い出す。第一話は集の導入部でどんな系統の話しかを読者に示す意味があり、第二話が面白いか面白くないかでその後を読んでくれるかどうかが決まるからだという。その意味で「蜜柑の木」は、お、読んでみようという気にさせてくれた。

ああ、13年前にここまで読んでいればきっと一気に読んでいたことだろう。ネットが繋がらないというのもたまにはいいもんである。

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