夫と高校生の娘も交え、現病歴も再度確認しているうちに「胸のしこりが・・」と患者が口走ったのをそのままにせず、「ちょっと待って、しこりですか、見せて下さい」と言うと、なんと見せようとしない。うん?「いや、左の胸のしこりは25才の時からあってずっと放置しているから」と言い、抵抗した。25才からおおよそ35年もそこにあるしこりならば普通なら良性のものだろう、でも鵜呑みには出来ない。「とにかく確認させて下さい」と強行診察した。もう、私の脳裏には「進行乳癌→骨転移」のパターンがはっきり浮かび上がっていた。はたしてようやく見せてくれたしこりは触ってその硬さといい乳癌に間違いなかった。よく聞けばそのしこりは4、5年前からあって徐々に大きくなるも25才の時からのだからと一度も病院に行って診察は受けていない。かかりつけのクリニックの先生にも見せていなかった。だから整形外科の病気では?などと方向間違いをしてしまう。自分で自分に勘違いの魔法をかけてしまうなんてー。
ようやく原因が分かったものの、今度は自力で動けないこの患者さんをどうするかで悩まされた。乳癌の検査治療を行える病院に紹介をしたいが、できれば救急車で即入院がいい。しかし鹿児島市内のその病院はあいにく満床とのこと。それで介護タクシーで移動し診察を受け、近々入院の予約もしてもらいましょうとなった。この間、電話でのやりとりなど時間がかかり、私が昼ご飯を食べたのは15時前だった。実は当直明けで午後には早帰りできるはずだったのだが、結局16時に病院を出て予定の散髪屋に着いたのはそれから30分後。早帰りだなんて・・はあ。
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