よくある質問のトップは「ピロリ菌は一度除菌したらもう大丈夫なのか?また感染することがあるのか」だ。これに対する答えは「一度除菌できれば二度と感染しない」である。いや、例外や細々したことを語ればそうは即答できないケースもあるがこう覚えておいて間違いはない。大人の胃であれば(13才以上)、ピロリ菌は胃の中に入って20分以内にほとんど死ぬ。胃酸に強いイメージのピロリ菌だが実はそうでもない。しかし乳幼児期に感染するとまだ胃酸分泌細胞が出来上がっていないので定着してしまう。胃酸分泌出来るようになっても以前からいる菌は胃の粘液の中で住み着きもう除菌できなくなる。だいたい5才くらいまでに汚染された上下水道環境にいると感染率が高まる。それに親や兄弟からうつることもある。昭和20年代生まれは感染率60ー70%という率でそこから徐々に低下し平成の10年以降に生まれた日本人は5%未満という低さになった。
このピロリ菌感染率低下で何か変わるかというと将来の胃癌発生率が劇的に低下しほぼ撲滅出来るということだ。胃癌の99%はピロリ菌が絡んでいる。鹿児島県は去年から高校1年生にピロリ菌検査を行い除菌療法を推し進め、調べると感染率が3.7%で実人数にして534人が陽性だった。若いうちに除菌できれば胃癌発生率はほぼ0になるから非常に有効な胃癌対策といっていい。ついで言うと今の胃癌検診のバリウム透視検査はそれほど有効ではない。受診率が低いし胃カメラに比べ胃癌の発見率も数分の1だ。胃カメラをしてピロリ菌陽性なら除菌をすると年配者でも胃癌発生が半分以下に抑えられる。癌は見つけるより発生させないが一番だ。
実は胃癌は感染症だと言っても言い過ぎではない。これに比べ原因がヒトパピローマウイルスと判明している子宮頸癌の対策がここ日本では遅れているというか頓挫しているのが非常に気にかかる。世界的にはワクチン接種で9割以上この癌は予防出来ることが証明されている。しかし、ここ日本では5年ほど前かワクチン接種した何名かの子らが副反応(といわれる)で動けなくなったとかの騒動があり、マスコミもじゃんじゃんキャンペーンをやってほぼ中止に追い込まれた。だがWHOはこの日本の態度を批判した。接種していない人たちにも同様の症状が同率で出ているのでワクチンが原因とは言い切れない。医学的にはそう判断するのが妥当で、去年日本産科婦人科学会がワクチンの接種勧奨再開を求める声明を出したにも関わらず国はまだ動こうとしない。このままだと日本の女性たちは毎年何千人も子宮頸癌に罹り命を落とす人が減らないだろう。
ピロリ菌も北大の浅香先生らが厚労省に「慢性胃炎+ピロリ菌陽性患者への保険適用を」と何度も訴えて来たが10何年とかかってようやく2013年に認められた。そのおかげでわずか4、5年で胃癌の死亡率が予想以上に減ってきているのだ。今週号の医事新報にもHPVワクチンの日本の惨状が出ていて「世界に取り残されている日本」と目次が出ていた。日本の接種率がどこかよーく探してみて(↓)。
だいたいにおいて日本及び日本人はワクチンに対する恐怖心というか潔癖症というか理性的判断が出来ないことが多い。かつて麻疹や日本脳炎でも副反応(副作用ではない)を気にしすぎて接種率が下がったことがある。結果、そのせいで大量に患者発生をさせてしまい世界から非難される。予防出来る病気は予防するに限る。カールはこれまで日本脳炎や子宮頚癌で若くして悲惨な目に遭った人を身近に知っているので子どもたちにはワクチン接種を必ず受けさせていた。私も身近に胃癌で亡くなった人たちがたくさんいたので子どもらは高校生時にみんな調べさせた。3人が3人ともピロリ菌陽性だった。即、除菌療法させたのは言うまでもない。後で悔やんでも遅いのだ。3年前にスキルス胃癌(ピロリ菌が原因)で亡くなった鹿児島出身の黒木奈々キャスターも「胃の検査を受けておれば」と悔やんで周囲にも胃カメラを受けることを勧めていたという。でも時代がもう少し遅ければ「ピロリ除菌をしておけば」であったろう。私に女児がいたなら絶対に子宮頚癌ワクチンは受けさせていた。
早く日本のこの異常事態が正常化して欲しい。
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