2018年11月12日月曜日

「若くてきれいな女性に出来やすい」ものとは

人間ドックの利用者で中年に入りかけていて初めて胃カメラを受ける女性がいた。不安そうだったので「鼻から入れる胃カメラはそれほどきつくないですよ」と説明してから開始した。で、胃の中にスコープが入れてすぐに「ああピロリ菌がいるな」と思った。これっていやしくも内視鏡室専門医を名乗るならそう難しくはない。ヒダの腫れ具合、発赤の有無、粘液の付き具合、そして胃の小弯部位の色調などで秒で判断出来る。検査中に「ピロリ菌がいそうですよ」と告げさらに胃の出口付近である前庭部にスコープ先端を進めると今度は小さなブツブツが多発する粘膜いわゆる「鳥肌胃炎」の所見があった。もう100%ピロリ菌陽性は間違いない。

この鳥肌粘膜は30年以上前は病的意義がよく分かっていなかったが、比較的若い女性のピロリ菌感染者に見られることが多い所見で時にスキルスなど未分化型胃癌を起こす可能性があると言われている。そこで「この鳥肌みたいな胃はですね、若くてきれいな女性によくあるんですよね」と言うと、「あら」と喜んでくれた。「でも胃癌をちょっぴり心配しないといけない」と言うと「えっ」と表情が曇った。全く上げたり下げたりもてあそんで悪かったかな。全部観察を終え、ウレアーゼ試験を行い、カメラを抜いた。数分も待てば試験液は黄色からきれいなピンク色に染まるはずだ。しかし人間ドックの係の人がすぐに連れ戻そうとしたので反応カップを本人に渡すことにした。「きっと色がピンクに変わりますからね」

それくらい診断に自信があったわけだが、長くピロリ菌の診断治療をしていて結果が出る前にウレアーゼ試験キットを本人に渡したのは初めてのことだった。カルテ記録もピロリ菌陽性とフライングで書いてしまった。次から次に検査の人が来るのでさっさと書き終えてしまいたかったこともある。でもさすがに気になったのでドック室に電話し確かめると「ピロリ菌陽性でしたー」との返事だった。ふ、だろうて。みるみる変化する試験液を見て女性は自分がピロリ菌感染者だと実感したことだろう。そして除菌薬を飲み菌が消えることで胃癌のリスクが減れば胃カメラを受けた甲斐もあったというもの。

ニュースキャスターの黒木奈々さん(鹿児島県出身)は32才でスキルス胃癌で亡くなっている。彼女は検診やドックで分かったわけでなく、胃に穴が開いて救急車搬送されて胃癌が判明した。彼女は自分に起きた境遇の無念さの中で「早めに癌検診を受ける」ことを強調していた。また著書によると術前の胃内視鏡で鳥肌胃炎を指摘されたとのことだ。やはり。かつてのグラビアタレント堀江しのぶも確か24才でスキルス胃癌で亡くなった。彼女にも鳥肌胃炎があったかもしれない。若くてきれいとは言われたいけれど胃に鳥肌はあって欲しくないネ。

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