「異邦人」・・短大を卒業したばかりの新人歌手久保田早紀の作詞作曲による100万枚を越える大ヒット曲で当時を生きていた人なら誰もが知る名曲だ。今時売り上げ100万を越えても必ずしも名曲とは限らないが「異邦人」は掛け値なしにそう言える。彼女は活動5年ほどで芸能界から引退し俳優久米明の息子で元スクェアの久米大作と結婚後は教会の賛美歌などを歌う歌手久米小百合として活動を続けている。ヒットし始めた時、南日本新聞の夕刊に彼女の紹介記事を見てジャケット写真の横顔が美人なのにびっくりした記憶がある。現在はその時の面影はないが品のいいママさんになってインタビューに答えていた。
この曲は元々「白い朝」というタイトルで中央沿線の子どもたちの様子をモチーフに作られシルクロードとは縁もゆかりもないものだった(2番の歌詞にその白い朝が出てくる)。それがサンヨー電機のカラーTVCMのタイアップに使われることになり音楽プロデューサーの酒井政利の判断で中近東やシルクロードのイメージで売り出されることになった。タイトルも「異邦人」そして歌詞も「ちょっと振り向いてみただけの異邦人」というフレーズを入れるように指示があったという。酒井政利は前年にもエーゲ海のイメージでジュディ・オングの「魅せられて」を大ヒットさせていてその敏腕ぶりが光る。
さらにすごいのがアレンジだ。編曲は萩田光雄でこの人は「シクラメンのかほり」「木綿のハンカチーフ」「待つわ」など当時の売れっ子だった。「異邦人」はメロディ、久保田の声など魅力はあるが半分はアレンジで持っていると思う。チャンチャンチャーンチャカチャカチャンチャンチャーンという実に印象的なイントロに引きつけられる。歌詞にはシルクロードを明示する言葉はないのに民族楽器のダルシマーを途中に入れその雰囲気を出している。これが相まって驚異的な大ヒットになった。久保田はこれ以降も曲をたくさん出すがそれほどのヒットにはならず今では一発屋の扱いすら受けている。しかしそんなことを差し引いてもいい曲である。その証拠にその後プロの歌手に数多くカバーされその人気は衰えていない。
彼女は当時はこの曲に戸惑いもあったそうだが今は「今ではここまで愛される曲になって非常に嬉しい。神様のプレゼントだと思っている」と語っている。全国を回る教会でも頼まれれば歌うこともあるそうだ。40年間忘れられずに歌い継がれている、そう、歌手、作曲家にとってこのような曲に巡り会えるのは最高の幸せだろう。例え一発屋でもその価値は失われていないのだった。
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