昨日の続き。「カリブ海の秘密」はミス・マープルが唯一海外で活躍する事件で、ホテルでの長期休養中、ある退役少佐の昔話につきあわされていたミス・マープルだったが、ふいに少佐は「殺人を繰り返しては身分を変えて姿をくらましている人間」の写真を持っていると言いだしたものの、その写真を取りだしかけたところでふいにしまい込んでしまった。ミス・マープルの後方に目をやり誰かを見たせいのようであった。翌日、少佐は急死する。薬の飲み忘れだろうとの予測が囁かれるもミス・マープルは納得のいかないものを感じる。事実、写真は消えていた・・こんな出だしだ。
テンポもよくて読みやすく、徐々に滞在客の裏事情が垣間見えてきたところで次の死者が出る。今度はナイフで刺され明らかに殺人だ。ここいら辺りで私は犯人を推測してみる。この時作中で話題にした実在の事件が参考になった。それは「浴槽の花嫁事件(1910ー1914年)」だ。イギリスで起きた連続新妻殺しで浴槽で殺す手口からこう呼ばれている。実はこの前読んだ「マギンティ夫人は死んだ」にも超有名な「クリッペン事件(1910年)」が触れられ、しかもその事件と同じような事件が背景に使われていた。読者は当然その事件を知っているものとしてクリスティーはさらにミスディレクション(誤誘導)を仕掛けていた。ちなみにクリッペン事件はピーター・ラヴゼイの「偽のデュー警部(1983)」でも背景として使われ、谷崎潤一郎の「痴人の愛(1925)」のモチーフにも使われるなど文学にも影響が大きい(若い小悪魔的な女といっしょになろうとした医師クリッペンは妻を殺し二人で逃亡するが大西洋上のモントローズ号で逮捕される)。
でもこの作品では「浴槽の花嫁」についてはさらりと触れられているだけだった。逆にこれは真相解明のヒントなではないかと思った私はネットで調べ直し、この作品に出てくる数組の夫婦のうちある夫が犯人と目星をつけた。しかし読み進めていくうちにどうもこのいつが犯人である動機が見つからない。うん?まてよ。クリスティー作品で読者がその人を容疑者から外したくなるのは動機が全くないかかなり希薄であるからだ。でもそれこそが実は犯人!となればやはりこいつが犯人、と思って読み進めると・・ふむ、正解だったぜ。ふう。
私は20年以上前、犯罪実録ものにハマって数十冊も読み込んだ時期がある。「浴槽」も「クリッペン」も名前は覚えているが詳細は忘れていた。「浴槽」など男性と女性を入れ替えれば日本の木嶋佳江の交際男性連続不審死事件と同じだ。金目当てで結婚もしくは婚約して殺すパターンである。一人上手くいくと二度三度繰り返し癖になる。時代や国や性別は違っても現実でも小説でも人間は同じような行為を繰り返すものってことだ。
で、次のクリスティー作品は「春にして君を離れ(1944)」。これはミステリーではない。彼女はメアリ・ウエストマコット名義で何冊か恋愛小説を書いていて故にずっと敬遠していたのだけれど霜月蒼氏やほかの読書評でも面白い、傑作との評判だったので読んでみることにした。まだまだ私の何度目かのクリスティーマイブームは終わらない。
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