30代の男性が黒色便が出るとのことで来院した。黒っぽい便は胃や十二指腸からの出血のことが多い。それで当然胃カメラを指示した。今日は私は内視鏡担当ではなかったが千門Drがまだ休んでいて人手が足りず私がすることになった。
内視鏡入れると・・あらら、典型的な十二指腸潰瘍、しかも血液がべっとり付いている出血性十二指腸潰瘍だった。止血処置をして「しばらく入院が必要」と説明し納得してもらった。このパターン、2、30年前は結構あった。しかし最近は月に一人もない。原因ははっきりしている。ピロリ菌感染者のそもそもの減少とピロリ菌除菌の普及があったからだ。実は十二指腸潰瘍の大部分がピロリ菌感染に伴うものだったのだ。
私の知人で某有名人だが毎年これに悩まされていていた。しくしく来て「あ、また来た」と潰瘍薬を飲んでいたそうだ。ところが20年ほど前、某大学病院を受診をした時に「実は胃潰瘍、十二指腸潰瘍患者へのピロリ菌除菌療法という治験があるのだが」と臨床試験を勧められ受けることにしたそうだ。するとそれ以来ピタッと十二指腸潰瘍による症状はなくなったんだとか。ピロリ除菌をすると十二指腸潰瘍はほとんど治ってしまうから治験がうまくいったのだった。
その頃、私も鹿児島大学で当時内科外来を担当していたこともあって1例だけ治験を頼まれた。ちょうど20才代の大学病院看護婦が十二指腸潰瘍だったので治験参加を頼むと了承してくれ、某友人同様除菌成功した。ただ、治験をやれば上手くいったのかというとそうではない。少なくとも1/3は失敗する試験だった。というのも、処方する薬が3種あってそのうち2つには除菌薬の抗生剤が入っていたが1つには潰瘍治療薬のみであとはダミーのカプセルが入っているだけだった。厳正にするため、治験を管理する側が分かっているだけで私にも3種のうちどれが除菌薬かは分からなかった。さらに、除菌薬そのものも完全に除菌できる確率は4/5程度ということが後で判明したので失敗する確率は1/3+2/3×1/5=7/15で約47%弱もあったのだ。
2000年11月から胃潰瘍、十二指腸潰瘍のピロリ菌感染者に除菌療法が保険適用された。今では潰瘍がなくてもピロリ菌がいて胃炎が確認されれば除菌が出来る。さらに平成生まれの若者はピロリ菌感染率が1割を切っている。十二指腸潰瘍を見ることがが少なくなったのも道理であった。
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