夜、録りだめしていたNHKの「バタフライエフェクト」放送の中で2週間くらい前の「ラストベルト アメリカ 忘れられた人々」を見た。前置きが「2024年の大統領選挙、トランプ氏は、五大湖周辺の工業地帯・ラストベルトの激戦州を制し勝利した。この地域は、1960年代まで自動車、鉄鋼が栄え、労働者は高い賃金を得て繁栄を謳歌した。しかしその後、日本車などの安い輸入製品に負け、さびついた工業地帯と呼ばれるようになった。国際競争に負けた原因は、皮肉なことに労働者の高い賃金だった。世界にアメリカンドリームを振りまいた地域はなぜさびついてしまったのか」であった。ラストベルトというのはRust Beltと書き赤錆地帯の意味でアメリカ合衆国の中西部地域と大西洋岸中部地域の一部に渡る、脱工業化が進んでいる地帯を表現する呼称である。「Rust」は「錆」(さび)という意味で、使われなくなった工場や機械を表現している。
いや〜意外に面白かった。鉄鋼業と自動車がアメリカの一大産業となりデトロイト周辺には仕事を求めて各地から労働者が集まり活況を呈す。しかし、労働者の待遇は不安定で恐慌時代には多くの労働者が解雇され貧困に喘いでいたが、ルーズベルトの大統領就任以降労働組合が認められるようになった。しかし自動車のビッグスリー(ゼネラルモーターズ、フォード、クライスラー)はなかなか組合を認めない非近代的な態度だった。ここに田舎町から出てきたウォルター・ルーサーという若者は労働者の権利を獲得するために動き、組合の中心的な存在となっていく。組合員を指導し、1936年に労働組合を認めないゼネラルモーターズにストライキを開始した。このことによって大きなダメージを受けたゼネラルモーターズは労働組合の設立を認め、組合は賃上げも獲得した。その後はクライスラーにもストライキから労働契約を勝ち取った。
最後は難関のフォードだ。当時のフォードはヘンリー・フォードの個人会社であって不穏な動きをする労働者を裏社会出身の連中が社内を監視し暴力でもって制するというまるでヤクザ組織のようなところだった。さすがのウォルター・ルーサーもすぐには組合を組織は出来なかったが、一案を演じ知り合いの新聞記者を連れ、組合加入のビラ配りを行う。そこに監視員やって来て暴力を振るうのだが、そこをパシャリだ。翌日の新聞に大々的に報道され、世論を味方に付けていき、数年後最終的に組合を認めさせ、段階的な賃上げにも応じさせることに成功した。
話は飛んで、それから半世紀後、日本車などの攻勢にデトロイトは疲弊していた。燃費のいい車を軽んじ、安い労働力が背景の外国車との競争に負け、さらに力を増した労働組合からへの高い給料支払いが負担となったりしていたのだ。世の中の主産業もシリコンバレーなどデジタル産業が伸び西海岸が好況を呈するようになる。デトロイト周辺の3州はラストベルトと呼ばれるようになり、労働者の意向が反映され、現代では大統領戦でここを制する候補が勝つといわれる地域になるという皮肉な状況という話だった。30年から50年も経つと産業や地域の栄枯盛衰が鮮やかに描き出され実に面白い。
ただ、今回の特集で一番印象に残ったのは、
ウォルター・ルーサー(Walter Philip Reuther)という人物だ。単なる労働組合の闘士というだけならままある人物像に過ぎない。しかし彼は違っていた。人種差別撤廃の公民権運動、性差別撤廃、貧困や公害問題をなくすために積極的な活動を行い、はてはキューバ危機にもケネディ大統領の特使として捕虜交換などの活躍をしたり、その後のジョンソン大統領とは毎週のように会いものすごく頼りにされていた。キング牧師の有名な「I Have a Dream」演説の時にも前説で数少ない白人の一人として演説を行っている。他、核不拡散にも賛成しておりただ者ではないと思った。ルーサーは『タイム』誌によって、20世紀で最も重要な人物のひとりに認定された。
残念ながら1970年に飛行機事故で亡くなってしまうが、1995年、彼はクリントン大統領から大統領自由勲章を没後追贈された。記念式典の際、クリントンは「ルーサーは時代をはるかに先んじたアメリカの先見家であり、彼が亡くなられて四半世紀たった今なお、わが国は彼の夢に追いつけていません」と述べたそうで、確かにそのとおりだ。こんな凄い人物を今まで私は知らなかったなんてー。アメリカはふところが深い。私なんかが知らない立派な人物が他にもまだまだいそうだわ〜。
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