2026年6月18日木曜日

大腸憩室出血にネクスパウダーを使う

先週から大腸憩室出血で入院している90歳代の女性患者さんはやっかいだ。S状結腸憩室からの出血で出血源の憩室もほぼ特定出来ているのに止血が上手くいかないのである。だいたいにおいて憩室出血は出血源憩室さえ分かればこっちのもの、見つけにくいからこそ日本中の消化器内視鏡室医たちが苦労しているんだ。なのにそこにあると分かっているのに手を焼いている。

出血源が特定出来る確率はせいぜい3割程度と言われている。そんな資格はないけれど「大腸憩室出血専門医」の私はだいたい5割以上特定出来ている。期間を区切れば7割にもなる。この90歳代の患者さんは過去7年くらいで5、6回もの憩室出血で起こしている常連さんで、確実に出血源を突き止め出血出来たのは3回で今回が4回目になるはずだった。だが今回は、見つけたはいいものの、最初に実施した結紮ゴムで止めるEBL(Endoscopic Band Ligation)はゴムが外れ翌日再下血したため、クリップ縫縮法で何個もクリップをガチガチに掛け直し、上手くいっていたはずだった。もう6日も立てばほぼ成功で「これで安心」と患者さんにも伝えていたのにー。

今朝の回診で「また下血があったようです」と言われて見ればオムツいっぱいに暗赤色の血液が付着し、再々下血だと分かった。前処置はせずにニフレック液で洗浄して出血源のS状結腸まで挿入する。なんでまた下血したん?それは縫縮したはずのクリップも外れていて、露出血管の微小動脈は無傷だったんだ。それがはっきり分かるのが↓の動画だ。

よーーく見れば、小さな血管が拍動しているのが分かる。今度はクリップの幅を細めて直達法(直接血管を把持し止血する)を試した。この方法がいいのは原理的にも分かっているのだが、いかんせん小さい憩室の小さい動脈をクリップで直接噛むのは難しいのだ。それでも今回は3個くらいのクリップを半ば盲目的に憩室内入れ込んで掛けた。しかし、それでも不十分な気がして、今回初めて新しい局所止血剤である「ネクスパウダー」というのを使ってみた。血液と接触することで速やかに接着性の高いゲル状のバリアを形成し、確実な止血層を作るもので、非静脈瘤性の消化管出血(大腸憩室出血もこれに相当)に対して噴霧する粉末状の非吸収性止血材である。令和7年に保険適用され、数ヶ月前に内視鏡室でも説明会を開いていた。局所止血剤には他に新しいもので「ピュアスタット」「ヘモスプレー」などがあるが、「ピュアスタット」は憩室出血のような動脈出血には弱く、「ヘモスプレー」は範囲の出血や、点状の微小な出血が多数ある場合に有効でやはり憩室出血には向かないようだ。
この「ネクスパウダー」は粉末を専用器具で一気に振りかけると、すぐに青いゲル状になり出血部位を塞いでくれる。思っている以上に早くゲル化したわ。とりあえず上手くいったようだ。ただ、高価な製品のため気軽に使えるものではない(医療機器保険償還価格は1gあたり1万7,600円で最大3gまで使用可)。またこの製品を使わざるを得なかった理由が必要でそれは後で書いて保険機構に提出した。このネクスパウダーが最後の砦(とりで)になることを願うばかりだ。

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