「あなたのすべてを」は昭和40年代に佐々木勉(ささき・べん;本名;佐々木勤、ささきつとむ)という人が作詞作曲し自ら歌ったフォーク調の歌謡曲で彼のデビュー曲でもある。しっとりとしたなかなか良い曲で私は運転中によく聴いていた。ただ、そのYouTubeでは「徳永芽里(とくなが・めり)」という全く知らない若い歌手が歌っていた。へーえと思って聴いてみると、これがなかなかいい。もともとこの曲は若い女性が素敵な男性に一目惚れし、会いたい、あなたのすべてを知りたいっていう恋ごろを歌ったものだからそうなのかもしれない。ただ、私はこれまで作者の佐々木勉が歌ったものしか知らなかった。
ただ「良い曲だけど一つだけ気になる歌詞が・・」と思っていたのが3番の歌詞の一節だ。おっとその前に「あなたのすべてを」の歌詞を1番から3番まで紹介しておこう。
なのに不思議ね 胸がときめく
恋はこうして 生まれるものなのね
おしえて欲しい あなたのすべてを
今宵一人で歌う あなたへの歌
私の心を はなれない
これがほんとの 恋というものかしら
おしえて欲しい あなたのすべてを
今宵一人で想う あなただけのこと
今度会えるのは いつの日かしら
あなたと会った このお店で
明日もわたしは そっとあなたを待つの
おしえて欲しい あなたのすべてを
今宵一人で歌う あなたへの歌
今宵一人で歌う あなたへの歌
あなたへの愛 あなたへの歌・・
ネットでこの曲にまつわることをあれこれ調べてみた。すると分かった。そして私の長年の疑問が氷解した。実はこの曲はもともと徳永芽里というハーフの新人歌手のデビュー曲として佐々木勉が作った。しかし佐々木はレコーディングの頃だか曲の出来がいいものだからどうしても自分でも歌ってレコードを出したくなったらしい。それで珍しいことに師弟の競作となった(徳永芽里が1967年4月発売、佐々木勉は同年5月発売)。しかしすでに29歳の男が歌うには一部歌詞を変えた方がいいということになったのだろう。そこでもともとは「あの丘で」となっていた歌詞を「このお店で」と変えた・・。
今度会えるのは いつの日かしら
あなたと会った あの丘で
明日もわたしは そっとあなたを待つの
おしえて欲しい あなたのすべてを
今宵一人で歌う あなたへの歌
今宵一人で歌う あなたへの歌
あなたへの愛 あなたへの歌・・
なるほど、この元歌なら全体が女性口調である理由も判明するし、この方が女心の切なさがより際立っている。実は徳永芽里のを聴いていて「あの丘で〜」と歌っていたからびっくりしたんだ。「あの丘で」なら、女性は今現在は「丘」ではなく別のところにいて初めて出会った丘を想っているとなる。「このお店で」だと、おそらくはホステスがお客として来たあの人を今現在密かに待っている状況になる。最初は競作だなんて知らないから元歌の「あのお店で」を女性向けにリメイクして変更したのだろうと勘違いしていた。ただ歌としては佐々木勉、徳永芽里どちらもいい。当時の芸能雑誌の記事を見ると若干徳永芽里の方が売れているなんて書かれていた。(佐々木勉の「あなたのすべてを」→https://www.youtube.com/watch?v=_2anr-KzEiQ)、徳永芽里の「あなたのすべてを」→https://www.youtube.com/watch?v=LyT6aJd3y54)しかしーだ。この曲、いわゆる実力派歌手と言われる面々にえらく人気があって大物歌手たちが数多くカバーしているのだ。びっくりするよ。佐々木勉は残念ながら1985年(昭和60年)に急性肝不全(おそらく劇症肝炎)で急逝してしまう。彼のヒット曲には昭和50年代で有名なのはロス・インディオス&シルビアの「別れても好きな人」で一番売れた。他にヒロシ&キーボーの「3年目の浮気」、榊原郁恵の最大のヒット曲「夏のお嬢さん」などがある。「あなたのすべてを」は実はそんなにヒットはしなかったのだ。2015年に没後30周年を記念して彼の珠玉の作品を集めたアンソロジーが発売された。
DISC1とCMソングとDISC2に分かれていて、DISC1には上の3曲やカレッジフォークその他歌謡曲など全22曲が収められているが、「あなたのすべてを」は入っていない。実はDISC2がぜーーんぶ「あなたのすべてを」なんだ。カバーした歌手の中にはレコード大賞受賞者が5人(尾崎紀世彦、布施明、美空ひばり、フランク永井、菅原洋一・・・。)もいる。ここには入っていないが森進一、ちあきなおみ、八代亜紀も歌っているので少なくとも大賞受賞者8人が歌っている。フランク永井など自身最後のシングル(1985年)がこの曲だった。
01. あなたのすべてを 唄:徳永芽里
02. あなたのすべてを 唄:尾崎紀世彦
03. あなたのすべてを 唄:島津ゆたか
04. あなたのすべてを 唄:増田多見
05. あなたのすべてを 唄:水沢有美
06. あなたのすべてを 唄:浜真二
07. あなたのすべてを 唄:大和京子
08. あなたのすべてを 唄:北原ミレイ
09. あなたのすべてを 唄:布施明
10. あなたのすべてを 唄:グラシェラ・スサーナ
11. あなたのすべてを 唄:和田弘とマヒナスターズ
12. あなたのすべてを 唄:美空ひばり
13. あなたのすべてを 唄:テレサ・テン
14. あなたのすべてを 唄:フランク永井
15. あなたのすべてを 唄:伊東ゆかり
16. あなたのすべてを 唄:菅原洋一
17. あなたのすべてを 唄:佐々木秀実
18. あなたのすべてを 唄:川上大輔
19. あなたのすべてを 唄:佐々木勉
すごいねー。いかにこの曲が歌い手に好まれ、そして歌い継がれているかって分かる。このCDを私は持っていないけれど、YouTubeで「あなたのすべてを 〇〇〇〇」とし、〇〇〇〇に歌手の名前を打つとたいていこの曲を聴くことが出来る。これがまたみんな素晴らしいんだ。そして先のフランク永井、尾崎紀世彦、美空ひばり、ちあきなおみなどいかにもその人らしい個性が出ている。尾崎紀世彦なんか若い時とベテランの2回も録音しているしー。で、歌詞だがほとんどの歌い手が佐々木勉の「このお店で」を採用している。実力派歌手ならばこちらがまあふさわしいか。「あの丘で」と歌っているのは私が調べた限り、1976年芹洋子で大ヒットした「四季の歌(1972年)」を最初にレコードに出したいぬいゆみさんのカバーだけ(「風は知っている」のB面)だ。
ここまで調べて、それぞれの歌い手の味わい深い歌唱を、YouTubeで私は目を閉じて聴いていた。すると、ふとカールのことを想った。出会った頃のカールだ。わずか3ヶ月で結婚しようと決められたのはなぜだったか、はっきりとは言葉に出来ない。しかしこの人といっしょになって間違いないというあの感覚・・この曲はそんなことを思い出させてくれもした。まぎれもない名曲だわ〜。






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