2026年8月14日金曜日

十種競技

外来に十代の男子が来た。母親も付き添っていた。問診をさっと見ると下痢数回とあり急性腸炎だなと推測はついた。腹部の聴診をしても診断はそれで間違いないだろうとして「点滴もできますけどどうされますか」と尋ねた。すると母親が「お願いします。この子は十種競技をやっていまして来週九州大会にも出るんです」という。へー、十種競技とな。点滴は当然してもいいとして、私は「十種競技って100m走のほか投げたり飛んだりするんでしょ。どんな競技があるの」と興味を持った。

すると投てき競技では「砲丸投げ」「やり投げ」に「円盤投げ」があり、飛ぶ競技では「走り幅跳び」「走り高跳び」は予想ついたが「棒高跳び」まであるという。これで六種。走り系では「100m」は当然で「400m」「1500m」に「110mハードル」まであり、これらを2日間でやりきり、各競技ごと点数化してその得点を競うんだそうだ。へー、そりゃきついわ。走るのでも瞬発力の100mと持久力の1500mでは得手不得手があるだろうし、砲丸投げの得点を伸ばそうとしたら腕の筋力が絶対必要だがそれは走り高跳びにはほぼ不要だ。

スピード、パワー、持久力のすべてが高いレベルで求められ、勝者は「キング・オブ・アスリート」と呼ばれ、欧米ではかなり人気のある競技で、その日本チャンピオンにもなった武井壮はそれを売りにしてタレントとして活動し「百獣の王」を自称しているのは周知の通りだ。
過去の日本選手権での優勝者をざーっと眺めると、ある選手が5、6年チャンピオンであり続けることが多いのに気が付く。2010年代は右代啓祐(うしろけいすけ)選手が6連覇を含む8回優勝をしていてその前は田中宏昌選手が5連覇をしていた。最近は丸山優真選手が連覇をして第一人者のようだ。丸山選手は右代選手が日本人選手として初めて8000点を越えて記録更新したのを13年ぶりに8308点で更新した。そして最近は8321点と日本記録更新をしまだまだ第一人者であり続けそうだ(ちなみに世界記録はフランスのケビン・マイヤーの9126点)。

で、右代選手が196cm、丸山選手が194cmと日本人にしては超大柄な体格なのも目を引く。世界でもこの競技の選手はそのようで武井壮の175cmはちょっと珍しいほうだ。思ったのが大谷翔平が193cmで運動神経も相当だから十種競技をやっていたら日本一は狙えたかもしれない。だがー。やらなくてよかった。ものすごいトレーニングをして日本選手権を何連覇しても世界ではメダルにも届かない。そして何よりそんなにすごいアスリートなのに世間にはほとんど知られないし、金銭的な恩恵も野球選手にくらべ100分の1もない。野球の三流選手の方が十種競技の一流選手よりなんぼも稼いでいるのが現実なんだ。

十種競技のスター選手だった右代啓祐選手は今年7月8日に十種競技を引退すると発表した。円盤投げだけはまだ現役続行するらしい。10年以上に渡ってハードなトレーニングに耐えても、世間的には地味な十種競技の第一人者であり続けた彼に、拍手を送ろうではないか。

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