2021年8月20日金曜日

甲子園出場回数から見えてくるもの、小倉監督の指導法

仕事で甲子園の樟南対三重はじっくり見ていられなかったが、樟南がここぞというところでヒットを打てないでいるのは分かった。うーん、やっぱり力強さというか守備や投手力では夏の甲子園は勝ちきれないなというのが感想だ。それと樟南に限ったことでなく最近の鹿児島代表はこの10年みんな小粒になってせいぜい2回戦までしか行けない。厳密には3回戦までが最高でベスト8に行ったのは2006年のあの鹿児島工業の時(ベスト4で優勝した早稲田実に敗れた)以来ないのだ。1995年から2006年までは準優勝が1回、ベスト4が2回、ベスト8が3回と上位進出が当たり前だった。なぜ弱くなったのか。これは選手の分散化が一番の原因だろう。神村学園の野球部が出来たこともだが、一番は確か2007年ごろの野球留学生問題で選手集めがしにくくなったのが大きいはず。樟南など奄美あたりからたくさん選手が来ていたし、大隅からも鹿児島市内に集まっていた。鹿屋中央や尚志館が強くなったのと引き換えに鹿児島市内の学校が戦力減したとみる。ある意味健全化されたわけだが甲子園で活躍するにはちょっと・・である。

かつての鹿児島代表は鹿児島三強と言われる鹿児島実、鹿児島商工(現、樟南)、鹿児島商で占められていた。1972年から2005年までの34年間で三強以外の夏の甲子園出場校は1980年の川内実(現、れいめい)1回のみで鹿児島実が13回、鹿商工(樟南)が14回、鹿児島商が5回と寡占状態だった。ざっくり言えば鹿実と樟南の2強パターンか。この2強パターンの都道府県は他にも結構ある。代表は奈良県だ。この50年間で天理25回、智弁学園18回とこの2校でほぼ独占している。他にやはりこの50年で言うと、青森の青森山田11回と光星学院(現八戸学院光星)10回、岩手の盛岡大付11回と花巻東9回、宮城の仙台育英16回と東北15回と東北地方に多い。これは野球留学が盛んで有力校が形成されやすいからと読める。他では埼玉がこの20年間で浦和学院10回と花咲徳栄7回、富山がこの30年で富山商9回と高岡商9回、沖縄がこの20年で沖縄尚学6回と興南6回とこのあたりが2強県か。かつては広島が広島商と広陵、石川が星稜と金沢が2強を形成したこともあったが広島商と金沢は現在は低迷期だ。

さらに1強県というのも最近は多くなった。その代表が福島の聖光学院と栃木の作新学院だ。聖光学院は今年こそ代表になれなかったが、2007年から2019年まで13回連続出場、作新学院は今大会も出て10回連続出場と凄まじい。他にも和歌山の智弁和歌山が30年間で23回、高値の明徳義塾が30年間で20回と1強県と言っていい。共通点は参加校が少ない地方の私学である点、指導者が有名監督である点などか。茨城の常総学院もそれに近かったが2016年が最後の出場で木内監督が引退、逝去(2020年)されてからやや低迷気味だ。何が何でも甲子園に出たいと思う野球少年ならこれらの学校を目指すとよい。3年間のうちで最低1回はまず甲子園に行ける。ただセレクションといって入部テストをクリアしないと希望するだけでは無理なのは当然である。


大阪桐蔭や横浜、東海大相模、中京大中京など強くて出場も多いイメージがあるが参加校が150を越えるため地方大会を勝ち抜くだけでも大変で1強や2強状態にはなかなかなれない。かつてのPL学園も全盛期の20年間で12回、大阪桐蔭もこの20年で10回出場がせいぜいである。私は毎年夏の甲子園週刊朝日増刊号を購入しているが、「選手権大会出場校と優勝校」の欄をじっくり見るのが習性になっている。眺めているといろいろな気づきがある。例えば先の栃木の作新学院だが、1973年の江川投手の話題や1962年の初の春夏連続優勝が有名でよく知られていたが、実は1978年を最後に30年も出場がなかった。2009年に久しぶりに出場を果たすと2011年からずっと連続出場と極端なパターンをたどっている。2016年には久しぶりの優勝を果たすなどまさに全盛期だ。これは小針崇宏監督が優秀なのかも。23歳で再建を任され、2009年夏に26歳で甲子園出場を果たし、甲子園出場監督の最年少記録を更新したのはダテではない。送りバントをあまりしない攻撃的野球が現代っ子には合っているのかもしれない。それと選手が迷わないように、いいプレーをしたときは「ナイスバッティング」と積極的に声をかけるようにしているという。その結果、選手は「何がよかったのか」を考え、プレーに対する理解を深め、判断力を養っていくという。叱る場面も含めて「いいものはいい。ダメなものはダメ」というメリハリのある指導が小針流とのことだ。

こうした監督の指導というのは結構大事でいや一番重要かもしれない。日大三の小倉全由(おぐらまさよし)監督がある一例を挙げている。少し長くなるが最近非常に感銘を受けたので以下にそのまま紹介しよう。

ある学校との試合でのことでした。0対0の5回裏、三高の攻撃もツーアウトランナーなしという場面で、味方のバッターがショートゴロを打ったのです。当然、ショートがさばいて一塁でアウト……と思いきや、ショートが一塁へ悪送球をして、バッターランナーが二塁へ進塁したのです。

続くバッターがこのチャンスを生かしてレフト前へタイムリーヒットを放って先制し、さらに後続が3連打を放ち、このイニングだけで一挙に3点を奪いました。

その後、チェンジになって相手の選手が自軍のベンチに戻ったとき、事件が起こりました。

「おい、ショートちょっと来い!」

相手の監督が鬼のような形相をして、ショートを呼び止めたのです。

「なんであんな送球をしたんだ! ミスするような場面じゃないだろう!」

さらに相手の監督の怒りのボルテージは上がっていきました。ショートを守っていた選手の顔を見ると、うつむいて一言も発していないように思えた次の瞬間です。

「こんなつまらないところでエラーをするなら、お前なんかスタメンで使うんじゃなかったよ! やる気があるのか!」

一方的に怒鳴りたてているのです。そして自軍の攻撃が始まっても、監督はその選手を責めたて、一向に収まる様子がありません。

私はこうした光景を見るたびに、「あれじゃあ選手はやる気をなくしちゃうよな」と感じてしまいます。

このことはベンチで一緒に見ていた三木有造(ゆうぞう)部長も、私と同じ考えでいてくれたようで、「試合中にあそこまで叱る必要はないですよね」と、相手のショートの選手に同情していたのです。

実は、この叱り方こそが大きな間違いであり、夏の大会に向けてモチベーションを下げる要因につながってしまうことに、相手の監督は気づいていなかったのです。

ミスしたことを、「ダメだ、ダメだ」と強い口調で叱責してしまうだけでなく、それを長々と続ける。これでは、叱られた当の選手本人のモチベーションは低下する一方です。

それだけではありません。みんなが見ている前で、恥をかかせるような叱り方をしてしまうと、チーム全体の士気にも影響します。選手たちは口には出さないものの、こんなふうに内心あきれているものです。

「あーあ、また始まったよ」

「この説教、いつまでやってんだよ」

こうなると、「一度ミスをしただけであんなに叱られるんだったら、無難にプレーしていたほうがいいんじゃないか」などと、選手のほうが勝手に自己判断をしてしまい、こじんまりとしたプレーに終始しがちになるのです。

もし自分たちの選手が暴投してしまったら、私ならベンチに戻って来た直後に、こう言います。

「お前さんが暴投するなんて珍しいな。どうしちゃったんだ?」

相手が答えやすくなるような言葉をかけるようにしています。すると、暴投をした選手は、「申し訳ない」と素直に反省している気持ちがあるので、冷静に暴投した場面を振り返ることができるのです。

「実は大事にいこうとしたら、腕の振りが鈍ってボールが高めに浮いてしまったんです」

などと説明してくれたのであれば、私はこう言ってこの件は水に流してしまいます。

「そうか。だったら次に同じような場面がやってきたら、手加減することなく思い切り腕を振ってファーストミットに投げ込むんだぞ」

ミスをしたことを一方的に叱ることなどせず、原因を聞いて解決策を講じる。これだけでいいのです。それだけで選手自身も反省し、「もっともっとうまくならなくちゃ」と練習しようとする意欲に燃え、夏に向けての気持ちの盛り上がりにつながるのです。

ミスは誰にだってあります。もちろん当の本人だって、ミスをしたくてするわけではありません。一生懸命プレーしたなかでのミスは、必要以上に叱ることなどせずに、失敗の原因をきちんと分析して、次に同じ場面がやってきたときに修正できていればそれで万事がすむのです。

それにもかかわらず、選手がエラーしたことを監督が咎(とが)めようとばかりにいつまでもネチネチ、グチグチ叱っているようだと、選手のやる気は間違いなく削(そ)がれていきます。そのうえ、誰かがエラーするたびに監督のお小言が続くのです。

「もう甲子園なんてどうだっていいや」

「早く夏の大会を終わらせて、長い夏休みを楽しもうな」

きっと、そんな雰囲気になってしまうでしょう。これでは監督と選手全員が一体となって、熱くなるような雰囲気など作り出すことができません。

監督が選手を熱くさせるような言葉をかけられるのか、それとも腐らせてしまう言葉をかけるのか、それによって、チームのその後の運命は大きく変わってくるのです。

実は、ここでお伝えしたエピソードは、みなさんも必ず聞いたことがある、甲子園の常連校の話です。こう言うと、「どこの学校ですか?」と気になる人もいるかもしれませんが、「春のセンバツにはけっこう出場しているものの、夏はほとんど出場したことのない学校」ということだけお答えすることにしましょう。

以上のような例を最近刊行した著書『「一生懸命」の教え方』で紹介している小倉全由監督は、「指導者が選手の心を盛り上げるような言葉をかけられるかどうか」につきると語っている。

日大三高卒ののち、関東一高を初めて甲子園に導き、周囲のあつれきで一旦辞めるも復帰してからまた甲子園に導き、その後低迷する母校の監督に招かれるとすぐにまた甲子園出場を果たし優勝も2回と名監督の誉れ高い方である。高校野球は監督の指導力が一番、選手をその気にさせられる監督でないとどんな名門校でも甲子園出場や良い成績は上げられないものなのだ。(さて、小倉監督にやり玉に挙げられていた学校ってどこの学校?私はすぐにK高かとピンと来たが確証はない。ただなんでセンバツにはよく出るのに夏は出て来ない?とずっと以前から気になっていた。少し謎が解けた気分だ。)

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