2026年5月1日金曜日

スプーン5本と歯ブラシ1本

連休前とあって昨日今日は内視鏡処置も多く組まれていた。今日の昼前には愛乱病院から「異物を飲み込んだ30歳代男性の処置が出来ないか」との問い合わせもあった。先月の朝礼スピーチで私がテーマに取り上げたヤツだ。すでに胃内を通過していたら摘出はほぼ不可なので「胃内に確実に残っているなら受ける」と地域連携に伝えると、「間違いなく胃内にある」とのことで受けることにした。ただ、異物関連はいつもなら私の担当なのだが、外来が忙しんでナラボーDrに頼んだ。

12時くらいからその患者の内視鏡は始まっていて、ちらちらと外来で内視鏡画像を遠隔チェックしていると、確かに異物が胃内にとどまっていた。だが、何だ、これは?

「なんか蛇みたい」と医師事務作業補助者のコンフォートさんとその表面のうろこ模様を指さした。ほか、1個だけ明らかに歯ブラシと思われるものもあった。「Between」は確かに歯ブラシ銘柄だ↓。
外来と病棟指示に時間を取られ、この異物内視鏡の件は放っておいたら、内視鏡室スタッフがやって来て「内視鏡室でナラボーDrのところへ来て欲しい」との要請が・・。なんだ手こずっているのかいな。

このケースの摘出には胆石排石用のトラペゾイド鉗子が把持力が強くて有用だ。通常の把持鉗子やバスケット鉗子では掴(つか)めてもすぐにずり落ちる。ただ、ナラボーDr、掴むことも難しいという。すでに挿入後1時間以上を経過しており、結局、私と交代することになった。で、トラペゾイド鉗子でやってみるがなかなか掴めない。そもそも蛇のようなものはプラスチック製の匙(さじ)だった。しかも4、5本も入っていた。なんでそんなもの・・なんてのは今はいい。とにかく取り出さないとー。

私と代わり20分近くが経過していた。一向に把持もしくは掴まえることが出来ず、「これは外科に頼んで開腹して胃を切開し取り出すしかないか・・」という展開が頭をよぎった。内視鏡処置でなかなか先へ進まずうまく行かない、こんな時に上手く行くことが多いのは体位変換だ。通常の胃カメラでは左側臥位で行う。しかしそれを仰臥位にしてみたら・・これがうまくハマった。スプーンや歯ブラシが少し移動し、しかも掴みやすい位置に来てくれたのだ。

噴門部にスプーン先端が位置し、そこを掴み後は慎重に引き寄せる。咽頭部でいったん引っかかるが患者さんにも我慢してもらってどうにか1個目を取り出せた。
患者さんには鎮静薬投与を実施していたが、もう覚醒していたようで、取り出した直後「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べていた。胃の粘膜もかなり荒れていて嘔吐や腹痛もありかなりきつかったのだろう、自分で原因を作ったのは分かっていて「2年ほど前に以前入院していた病院でやった」んだと。

1個上手く行けばあとは同じ要領でどんどん取り出せた。結局、プラスチックスプーン5本と歯ブラシ1本を取り出した。ナラボーDrから始まって処置終了まで1時間40分ほどもかかったわ。↓こんなにも飲み込んで2年以上もよく過ごせていたもんだ(‾□‾;)。スプーンは長さ19cm、直径は一番広い部分で3cmほどもあった。これじゃ胃を通過できない。

なぜにこんなのを飲み込んだのか。愛乱病院に転院する前は鹿児島市内の某精神科にいて、一時独房のような部屋に入れられていた。その時のストレスはすごくて、自暴自棄になり、朝食に出てくるスプーンを1日1本飲み込んでいたという。歯ブラシもその頃飲み込んだと。

はあ・・。だいたい異物を呑み込む患者さんて、自分自身が情けなくなった時や卑下したくなった時に多い。「自分は何てダメなんだ、もうどうにでも成れ」といった心境がそうさせる。まあ、一般の人は自分で自分の頭を小突いたり、壁など殴ったり、物を投げたり壊したりというような態度を取る。しかし自己肯定感が低い患者さんは異物呑み込みという極端な行為に走るんだ。この患者さんの話を聞いて、私は一応納得した。ま、そのような行為に走ったのは分からないでもないということだ。この患者さんは当院は初めてで、私が言う前に「もう二度としません」と自分から言ってくれた。ふうむ、この人はもうしないかもしれない。この手の行為をする患者は何度も繰り返す人が多く、私たちがいくら指導しても自分からは「もうしない」とははっきり言明しないからね。

内視鏡室を出られたのは14時を過ぎていて、まだ外来業務が残っていたけれど、昼食が撤去されそうでいったん食堂に向かった。私のものだけが残っていて、職員の誰かが気を利かし「こてる院長の食事は残しておいてください」と頼んでくれていたようだ。有り難や〜。

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