2016年6月1日水曜日

「週刊現代」のいうとおりにしたらぁ〜

週刊現代が「ダマされるな!医者に出されても飲み続けてはいけない薬」と特集をぶった。「高血圧のディオバン、糖尿病のアクトス、コレステロールのクレストール、認知症のアリセプト、脳卒中のプラビックスなど」と副題がついている。

これは刺激的な内容だ。よく出される薬で名前を見た患者の中には「あ、自分も飲んでいる」と思わず「現代」を手に取ってしまうかも。医者側もこれは困ったことになる。「この薬大丈夫ですか?」という質問にいちいち答えねばならない。記事の内容を読めばどの薬にもある副作用を大げさに取り上げ不安をあおり立てているだけ。新たに薬を出すときに私などたいていその副作用についてはすでにしゃべっているのだが。上の薬でディオバン、クレストールは私はよく出す。ディオバンにいたっては例のデータ偽装問題が起きても私自身が9年間飲み続けてさえいる。クレストールは実によく効く薬でコレステロールを下げたいということに同意した患者には必ず筋肉を傷める可能性のあることを伝えている。そもそもコレステロールが高すぎる患者にそれを下げることは心筋梗塞の予防に役立つのはきちんとデータが出ているではないか。

降圧剤もディオバンやブロプレスなどのARB系の新薬より寿命を延ばす効果があるといわれる古いサイアザイド系の薬がいい(という新潟大学名誉教授の岡田正彦氏の)話を載せている。古いが安いため製薬会社は売りたがらずそれに医者が乗っかっているというような書き方だが、サイアザイド系なんて副作用がいろいろあるし効き目は弱いのであんまり使われなくなっている。で、その副作用についてはいっさい誌面ではふれられていないのだ。こうも書いている。「現在、売れているARBが発売される前、高血圧の治療で主に使われていたのはACE阻害薬というタイプの薬だった。しかし、ACE阻害薬の特許切れが近づき、大きな利益が得られなくなった製薬会社は、次のドル箱としてARBを開発し、それが「新しく、安全で、効果が高い薬である」という大キャンペーンを行った。その結果、医療界では、ARBが降圧剤治療のスタンダードとなったのだ」
なんだか医者はダマしやすくバカだといっているみたい。ACE阻害薬は空咳が出やすい、降圧効果がやや弱いという欠点があり(日本で認められている用量が海外に比べ少なすぎるという指摘もあるが)そこをARBは改善した。ARBはサイアザイド系やACE阻害薬に比べ副作用が少なく降圧効果があるというので医者に受けたのだ。医者も患者に実際に使ってみて効果を実感しなければ使わないもので製薬会社が勧めればホイホイ使うわけじゃない。そして値段の高さもディオバンなどはすでに特許期限も切れジェネリック製品が出て安くなっている。私もジェネリックのディオバンを飲んで血圧はだいたい120以下でずっと元気だ。

雑誌はさらに高血圧がよくて低血圧はよくないともとれる医者の意見をこれでもかと書いている。お前こそバカか。高血圧放置で高齢者のみならず中年の脳出血で死ぬ人を何人も救急で診ている私にすれば暴論に近い。高齢者でやたら下げすぎてはいけないケースもありそれをことさら一般化して持論に引き込もうとしている。かつて日本が高血圧大国で外国と比べ脳出血患者が多く死因の1位が脳卒中だったことを忘れているんじゃないか。脳卒中も今でこそ外国並みに脳梗塞が多くなっているが、50年前は「なんで日本は脳出血がそんなに多い?データの間違いではないか」と外国からは疑われるほどだったのだ。食生活の変化、減塩指導や降圧薬のおかげで今じゃ死因の4位でその中でも脳出血はかつて80%を占めていたが今は25%くらい、その代わり脳梗塞が増えた(脳卒中のうち60%を占める)。そして脳出血、脳梗塞ともに最大の危険因子が高血圧だとはっきりデータが出ているのである。

さらにロキソニンもやり玉に上がっている。お決まりの胃潰瘍、胃炎を起こしやすいからだ。まあ私なんかそのせいで緊急内視鏡をやる羽目になっているから飲み過ぎてはいけないのは知っている。だからといってパッと見の読者は「ロキソニン=危険」と判断してしまいがちだ。インフルエンザのタミフルも「1日早く熱を下げるだけ、副作用を考えるとどうしても熱を下げなければいけない時以外は不要」と書いているが、以前医師へのアンケートで「あなたが効果を実感する薬第1位」になったタミフル、最近は他の新薬もあるがインフルエンザのきつさを半日か1日で取ってくれる薬はやはり有り難いのだ。そして副作用は何もないといってもいいくらいで10代への異常行動副作用疑いのことを言っているのだろうがそれすら本当に副作用か疑わしいのにそれに触れず勝手に持論に引き込んでいるだけだ。「え!私の薬、そんなに危ないの?」と思わせるその刺激性が週刊誌の週刊誌たるところなんだが、本来飲まねばならない人に拒否反応を起こしかねずやっかいだ。

17年ほど前、「買ってはいけない」という本が大ベストセラーになった。Wikipediaでは「世間で広く流通している食品、日用品、家電製品など身近な商品を取り上げ、それに含まれる食品添加物その他の化学物質などの毒性や危険性、家電製品の構造・性能上の問題点などを誇張し、企業名と商品名を名指しし「買ってはいけない」としていたことで話題になり、約200万部を売り上げた」とある。この本は後に批判本が多く出るなど問題があり、その後続編もずっと出ているようだが今ではほとんど話題になっていない。この本の論調と今回の「現代」は似ている。その本の冒頭に上げられた製品が潰瘍治療薬の「ガスター」だった。それをみて私はこの本がトンデモ本と分かった。私でも知っている副作用をしつこく指摘し、最後に「あなたはそれでもこの薬を飲みますか」と結んでいたのだ。この薬が潰瘍で苦しむ多くの人を救い胃潰瘍手術患者を年間で何万人も減少させた功績には全く触れず(きっと知らないか無視している)、ただただ滅多にない白血球減少副作用を問題視し「飲むな」と主張する。31年前に発売されたガスター(一般名ファモチジン)は今でもよく使われている。実にいい薬なのだ。

以上だ。理解力のある患者さんはこれらを信じて脳卒中や心筋梗塞になったら週刊現代を訴えよう。

1 件のコメント:

  1. 僕は医療の専門家ではありませんが、岡田正彦さんの本を読んで『危うさ』を感じました。あれもダメこれもダメ的な感じの人は『思い込みが強い』傾向があると思いますし、彼の本を読んでいて論理的でないと思ったからです。正しい部分もあると思いますが間違っているとしたら社会にとって悪影響もあると思うので、いろんな専門家から検証されるべきだと思っています。

    週刊現代としては『売れる特集』というのは商売として分かります。この場合だと医師の発言を載せただけ。という言い訳がたちます。読み手が鵜呑みにしなければいいのですが一般人には検証のしようがないので、悩ましいところです。

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