結論から言えば、鳥刺しは要注意、食べずにいたほうが無難と覚えておこう。
「消化器内視鏡」を専門とするDr.こてるです。
趣味のボウリング、麻雀や病院での出来事、家族の内輪ネタから時事問題まで
日々の徒然を「こてる日記」として、毎日アップしています。
2000年5月から開始し2015年5月分からブログに移転しました。
2021年3月24日水曜日
この子の下血の原因は
下痢と下血が症状の女子高校生が外来に来た。たんなる下痢なら特に検査はしないが下血症状とあらば一度は大腸内視鏡が必要だ。とりあえず浣腸をして直腸S状結腸だけでも観察したい。というのもその年代から潰瘍性大腸炎を起こす人がいるからだ。潰瘍性大腸炎は直腸、S状結腸から侵されやすい。特定疾患の病気で、もし発症すれば一生付き合っていかないといけない場合もあり、時に重症化もある。最近は「安倍総理がこの病気でして・・」というと大抵の人は「ああ」と反応があり話がしやすい。最後に「この病気になっても総理大臣はやれますから」と結ぶと、皆、破顔一笑してくれる。
外来担当日だけどちょうど手が空いたので私が大腸内視鏡を行った。直腸に入れてすぐ、「これは(潰瘍性大腸炎とは)違う」と思った。なぜそうなのか、普通は一つ一つの所見を列記して説明するが、やっている時はそんなことは考えず瞬間で判断している。例えるなら、あなたがたくさん子どもがいる中で自分の子どもを指さす時に「うちの子どもは背が高くて色白で目が大きくて・・」などと考えはしないだろう。しなくても見た瞬間分かる。それとおんなじ。癌か潰瘍かなどもまずはパッと見た目で判断し、後から所見の理由付けを確認するという手順が実は多い。
粘膜に血液は確かに付着していた。S状結腸にも付着はあり明らかに腸が炎症を起こしている。その原因がウイルスや細菌などの外敵か、あるいは自分自身の免疫力が間違って自分の組織に向かっている(自己免疫性疾患)のかはすぐには判断出来ない。潰瘍性大腸炎は自己免疫性疾患と言われている。それで細菌検査や生検で病理検査も行った。ただ内視鏡所見に潰瘍性大腸炎に特徴的なものがないため私は急性腸炎の一種と思った。
終わって本人とその父親にそのことを伝え、私はある食べ物を食べていないか尋ねようとした。しかし機先を制された。父親が「実は・・」と話し出したのが「症状が出る3、4日前に鳥刺しを食べたんです」「それも(娘は)生まれて初めてで」あはーー!私もそれを尋ねようと思ったばかり。鹿児島には鶏の生肉(鳥刺し)を食べる習慣がある。だからカンピロバクター感染による腸炎が多い。カンピロバクター菌は鶏肉には住んでいないが腸内にいて調理の際にくっついて感染を起こすことがある。時に出血を起こすこともあり、年寄りや子どもは重症化することもあり注意が必要だ。さらに父親が言う。「実はこの子の姉も同じようにお腹を壊していまして」「私が鳥刺しが大好きなもんですから」あ〜。
つい数ヶ月前、ある母親が息子に鳥刺しを食べさせ同様の症状を起こしていたことがあった。私が「カンピロのことがあるから子どもには鳥刺しは食べさせるもんじゃない」と言うと「えー知りませんでした。私はこれ(鳥刺し)は鹿児島の大事な食文化だと思っていたもんですから食べさせようと思って・・」とその理由を説明していた。ふむ、私も子どもの頃に同様に食べていた。幸い腸炎にならずその後も大事には至っていない。鹿児島県人(宮崎県人も)は鳥刺し食文化のためカンピロに免疫がある人が多いという説もありその可能性は否定できない。しかし、特に子どもでは腸炎で苦しんだり、時にはギランバレー症候群という両手足に力が入らなくなり、急速にまひが全身に広がる神経疾患を起こすこともある。そのリスクを思えば鹿児島の文化はそれほど大事ではないかもしれない。↓確かに旨そうな鶏刺しだが・・。
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