2020年12月28日月曜日

虚血性大腸炎はなぜ人の口に上らない

 仕事納めは公的機関は今日までとのことだが、民間はまちまちで青雲会病院は明日の29日の半日までだ。サブアラドDrのところは30日半日までらしい。

昼過ぎまでは内視鏡検査などで忙しかった。その中で某下血患者は診察しただけで虚血性腸炎(虚血性大腸炎)だろうとほぼ分かって内視鏡検査したら案の定だった。入院させるかそのまま外来で診るかはDrによって判断が分かれるところで、私は生活指導を十分にして入院はさせない方針を取った。虚血性腸炎って最初の2日を過ぎればほぼ症状はなくなるし、入院させると年末でいつ退院させるか少々悩む。タイミング的に私が休みの時に退院となりそうで入院や事務のスタッフも仕事がやりにくいだろう。

そもそも虚血性腸炎は発症数が多く、月に1、2人、多いときは4、5人も発生する病気だ。症状はかなりの腹痛を伴い、その後に下血や血便が出て、びっくりして病院に駆け込む患者が多い。だから一般の人がよく知る病気かと思いきや、案外その名前は知られていないのだ。病院の内視鏡スタッフにすればありふれている病気なのに、みなさんが日常会話で「この前、虚血性腸炎になってね」とか言ったり聞いたりすることはあまりない。昔からあったはずなのになぜさほどこの病名は流布していないのか。それを自分なりに考えてみた。

まずはこの病気が出だしの症状の激烈な割には治りが早く、かつ後腐れがない点にあるからと思う。腹痛は1日2日、下血も3日以内にはほぼなくなる。そして後遺症が残るケースは1割にも満たない。虫垂炎や憩室出血のように放置されれば悪化する可能性がある病気ではなく、喉元(いや肛門か)過ぎればあの痛みや出血は何だったんだろうで済まされていたのではないか。そして一生に一度しか発症しないことが多く、くり返す人でもせいぜい二度までで何度もくり返す病気ではないことも人口に上ることが少ない理由だろう。

そして大腸内視鏡の普及がここ30年前くらいからでそれ以前は大腸内視鏡はそう簡単に受けられる検査ではなく、血便があっても即日浣腸して検査するケースは少なかった。レントゲン+バリウムや後日改めて大腸内視鏡をするケースが多かった。ところが1週間も経過すると大腸粘膜はかなり改善が進んでいてへたするとほぼ正常化している場合もある。それは今でもあって、他医から紹介され10日くらい経って大腸内視鏡すると「うーん、虚血性腸炎だったのでしょうねえ」としか言えないことが多い。だから私はできるだけ初日に浣腸のみの前処置で観察することが多い。診断名が付かずに治る病気であった、これが病名が普及しない理由でもあろう。

検査については、発症部位のほとんどが下行結腸でその次にS状結腸と場所も決まっているのがこの腸炎の特徴でだから浣腸のみで観察は十分なことが多い。ただ奥の方に大腸癌でもあったら怖いのでそのまま奥まで見るか、残便が多い場合は後日きちんと前処置して全大腸内視鏡を行うようにしている(何百例と見た虚血性腸炎の中で癌もあったケースが2例ほどある)。

最後に虚血性腸炎の治療だが特に何もない。せいぜい安静と食事制限くらいでこれも話題に上りにくい理由の一つだろう。この患者さんには「今日と明日を絶食にして水分のみで過ごせられれば入院はしなくてもいいが」と説明したら本人もそっちを選んだ。まあ当然か。虚血性腸炎に限らず普通の感染性腸炎でも絶食は腸炎の最大の治療法である。ただそれだと脱水気味になるので水分摂取は必ず勧める。あとこの人は日頃が便秘気味だとのことで緩下剤を処方した。便秘でうんうん唸ってしまい腸管の内圧が上昇すると一過性に大腸を栄養する動脈にけいれんが起き虚血(血が流れなくなる)が起きる。その結果腸の粘膜が壊死に陥り剥離、出血して下血や血便を起こすのだ。

そんなわけでこの患者の内視鏡画像を載せたいが写真に撮っていなかった。憩室出血の場合は撮っていることが多いのに・・。これもあまりにもありふれていて撮影意欲が湧かないってことだ。ネットで拾った画像を載せておこう。↓はまさしく典型像。この患者さんものと言っても何ら不思議はないな。

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